2005年07月24日
ラブ・フォーティ 第3話 〜エリート〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第2話より続く
窓枠に手をかけ、頭を突きだした。音はちょうど左真横から飛んでくる。首をひねると50メートルほど先に、それはあった。廊下からは死角になっていたが、中庭の一部に組みこまれるように、木立がらみのフェンスに囲まれたテニスコートが。
木の間越しに人の動きがチカチカと見える。動きと音がシンクロする。カッー、カッー、カッー……。乾いた打球音。先ほど宴会場で寝ぼけて聞いていたときは、ただ単にリズミカルな音に感じていたが、そうではなかった。音と音の間隔は長短し緩急している。が、そこには人の体が受け入れやすい独特なリズムがある。
新田は視線をコートのほうへ投げたまま、酒気を吐きだすように深呼吸をひとつ、ふたつ、みっつした。
みっつめの冷気を胸いっぱいに飲みこんだ瞬間ふと思った。
――誰がやってるんだ?
思って、驚いた。テニスなどまったく興味のない新田が、緑の向こうにいるプレイヤーのことに興味を抱いた。二日酔いと寝不足で腐乱した頭が、どうしてそんなことに思いを至らせたのか、新田自身にもわからなかった。廊下の時計は6時半を示している。もう少し眠りたいのに、たかがテニスじゃないか、見たってしようがないのに、と思いながらも新田は中庭への通用口を求めてすでに足を動かしていた。
一列に律儀に並んだ椹(さわら)の木々が、まるで繁茂する壁のようにフェンスの外側をとり囲み、コートがほどよく目隠しされている。中にいる人間が誰なのか、外からは判別しにくい。
緑の壁の前で新田は立ちどまり、耳を澄ました。ガットとボールの衝突音、それにシューズとコート面のあつれきが重なり、さらに気合いを凝縮した低く短い男たちの唸り声がまざる。それらがめまぐるしく交錯し、闘争する。決着すると一瞬静まり、また再燃する。ときおり女の声と拍手がからむ。
新田はたまらなくなり椹の木立に手をかけた。両手で枝葉をそっとかきわけ穴をこしらえる。その穴に吸いよせられるように顔を近づけ、覗きこんだ。新田のすぐ目の前、コートサイドのベンチに白いテニスウェアの女が3人腰かけていた。3人とも背中にうっすら汗をにじませていて、なんとなくなまめかしい。
新田は角度を変えてコートエンドに視線を飛ばした。
すると、そこにいたのは営業1課長・安斎直也だった。コーナーぎりぎりに打ちこまれたボールを、安斎は猛追し、体を低重心に構えながら打ちかえす瞬間だった。バックハンドストローク。右肩先をボールに向け、まるで腰に据えた刀を引きぬくようにラケットを振りだした。「クワッッ」という炸裂音とともに打ちかえされたボールは、ネットをかすめるように超低軌道で相手コートへと切れこんでいく。
女たちが、小さな悲鳴とも大きなため息ともとれる声を漏らす。
新田の視線が反対側へ飛ぶ。
そこには、安斎の部下、泉岡がいた。2年間フランスに企業留学していたエリートで、しかも社内一のスポーツマンと言われている男だ。
その泉岡の彫りの深い顔がゆがんでいる。泉岡は飛球方向に突進しながらも、追いつけないことをすでに覚悟しているように見える。安斎のボールは目いっぱいトップスピンがかかっているため、ネットを越えるなりコートに吸いつくように急降下し、猛然とバウンドすると、そのままサイドへサイドへと逃げていく。泉岡は走りながら上半身を前に突きだすとともにラケットを振りだした。が、ボールはラケット突端をかすっただけでコート後方へ弾けとんだ。
女たちの甘ったるい歓声が響きわたった。
続き(第4話)を読む
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第2話より続く
窓枠に手をかけ、頭を突きだした。音はちょうど左真横から飛んでくる。首をひねると50メートルほど先に、それはあった。廊下からは死角になっていたが、中庭の一部に組みこまれるように、木立がらみのフェンスに囲まれたテニスコートが。
木の間越しに人の動きがチカチカと見える。動きと音がシンクロする。カッー、カッー、カッー……。乾いた打球音。先ほど宴会場で寝ぼけて聞いていたときは、ただ単にリズミカルな音に感じていたが、そうではなかった。音と音の間隔は長短し緩急している。が、そこには人の体が受け入れやすい独特なリズムがある。
新田は視線をコートのほうへ投げたまま、酒気を吐きだすように深呼吸をひとつ、ふたつ、みっつした。
みっつめの冷気を胸いっぱいに飲みこんだ瞬間ふと思った。
――誰がやってるんだ?
思って、驚いた。テニスなどまったく興味のない新田が、緑の向こうにいるプレイヤーのことに興味を抱いた。二日酔いと寝不足で腐乱した頭が、どうしてそんなことに思いを至らせたのか、新田自身にもわからなかった。廊下の時計は6時半を示している。もう少し眠りたいのに、たかがテニスじゃないか、見たってしようがないのに、と思いながらも新田は中庭への通用口を求めてすでに足を動かしていた。
一列に律儀に並んだ椹(さわら)の木々が、まるで繁茂する壁のようにフェンスの外側をとり囲み、コートがほどよく目隠しされている。中にいる人間が誰なのか、外からは判別しにくい。
緑の壁の前で新田は立ちどまり、耳を澄ました。ガットとボールの衝突音、それにシューズとコート面のあつれきが重なり、さらに気合いを凝縮した低く短い男たちの唸り声がまざる。それらがめまぐるしく交錯し、闘争する。決着すると一瞬静まり、また再燃する。ときおり女の声と拍手がからむ。
新田はたまらなくなり椹の木立に手をかけた。両手で枝葉をそっとかきわけ穴をこしらえる。その穴に吸いよせられるように顔を近づけ、覗きこんだ。新田のすぐ目の前、コートサイドのベンチに白いテニスウェアの女が3人腰かけていた。3人とも背中にうっすら汗をにじませていて、なんとなくなまめかしい。
新田は角度を変えてコートエンドに視線を飛ばした。
すると、そこにいたのは営業1課長・安斎直也だった。コーナーぎりぎりに打ちこまれたボールを、安斎は猛追し、体を低重心に構えながら打ちかえす瞬間だった。バックハンドストローク。右肩先をボールに向け、まるで腰に据えた刀を引きぬくようにラケットを振りだした。「クワッッ」という炸裂音とともに打ちかえされたボールは、ネットをかすめるように超低軌道で相手コートへと切れこんでいく。
女たちが、小さな悲鳴とも大きなため息ともとれる声を漏らす。
新田の視線が反対側へ飛ぶ。
そこには、安斎の部下、泉岡がいた。2年間フランスに企業留学していたエリートで、しかも社内一のスポーツマンと言われている男だ。
その泉岡の彫りの深い顔がゆがんでいる。泉岡は飛球方向に突進しながらも、追いつけないことをすでに覚悟しているように見える。安斎のボールは目いっぱいトップスピンがかかっているため、ネットを越えるなりコートに吸いつくように急降下し、猛然とバウンドすると、そのままサイドへサイドへと逃げていく。泉岡は走りながら上半身を前に突きだすとともにラケットを振りだした。が、ボールはラケット突端をかすっただけでコート後方へ弾けとんだ。
女たちの甘ったるい歓声が響きわたった。
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Posted by love40 at 15:04
│Comments(2)
この記事へのコメント
オヤジライターさん、どんな時にストーリーを練ってらっしゃするんですか? フーム??
Posted by
花桃 〈*・。・*)/
at 2005年12月23日 03:32
●●●花桃 〈*・。・*)/さんへ●●●
>オヤジライターさん、どんな時にストーリーを練ってらっしゃるんですか?
基本的なパターンは、2時間ほど集中的に考え・書いて、30分ほど頭をクールダウンします(音楽聴いたり、机の上を掃除したり、寝そべったり、風呂に入ったり)。そして、また2時間考えて書き進めます。これを1日6〜7回くり返します。そうしますと1日15〜17時間くらい、いろいろな仕事(だいたい7〜8本)が進行します。休み(土・日)というものはいっさい取りません。つまりほぼ365日、それをくり返しています。歩いているときは、小さなノートをもっていて、思いついたことを書き込んでいます。年中寝不足なので、つらいときは部屋で立って本を読んだりしてます。
>オヤジライターさん、どんな時にストーリーを練ってらっしゃるんですか?
基本的なパターンは、2時間ほど集中的に考え・書いて、30分ほど頭をクールダウンします(音楽聴いたり、机の上を掃除したり、寝そべったり、風呂に入ったり)。そして、また2時間考えて書き進めます。これを1日6〜7回くり返します。そうしますと1日15〜17時間くらい、いろいろな仕事(だいたい7〜8本)が進行します。休み(土・日)というものはいっさい取りません。つまりほぼ365日、それをくり返しています。歩いているときは、小さなノートをもっていて、思いついたことを書き込んでいます。年中寝不足なので、つらいときは部屋で立って本を読んだりしてます。
Posted by
オヤジライター加久時丸
at 2005年12月24日 14:57




