2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第7話 〜ノンブル〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第6話より続く

 月初めの営業統括会議がおこなわれる日だった。新田は営業3課の報告書をまとめ、そのコピー30部を早川に頼んだ。
 会議15分前に上がってきたコピーを何げなくめくって、新田は青くなった。役員ならびに営業各管理職が目を通す20ページにおよぶ報告書のページ順が数カ所入れ替わっているのだ。新田はあわてて早川を呼びつけた。

「早川君、こ、これ、ページが入れ替わってるじゃないか」
 早川久美は不服そうに口を尖らかせ書類を覗きこんだ。
「私、知りません」
「知らないって……。僕は君に渡す前にページを確認して渡したんだ」
「私が変えたって言うんですか?」
「そんなこと言ってない。君が書類を束ねるときに順番を間違えたんじゃないのか?」

 早川の目もとがみるみる赤らんだ。
「やっぱり私が変えたって言ってるんじゃないですか?」
「そんなこと言ってない。君は書類を束ねるときノンブルを確認しなかったんじゃないのか?」
「私は課長補佐から渡されたままコピーしてホッチキスしました」
 新田の中でいらだちがうごめきはじめた。

「君は、僕の質問を聞いていないのか? 僕は君に“各ページのノンブルを確認してから束ねたのか”と聞いているんだ」
「そう指示されてません」
「指示されてないって、そんなこと常識だろうが」
 早川はぷいと顔をそむけ口の中で何やらぶつぶつ言いはじめた。不明瞭だが新田には聞こえた。突きあげる怒りをこらえた。
「おい早川君、いま何て言った? もう一度言ってみろ」
「いやです」
 新田の右手が固いこぶしに変わった。次の瞬間デスクに叩きつけられていた。営業部全体がしんと静まりかえった。皆の視線がいっせいに集まった。

 営業3課課長の木島が駆けより、ふたりの間に分けいった。
「どうしたんだ、新田君」
「じつは早川君に……」
 新田が説明しかけると、それをさえぎるように早川が叫んだ。
「私は悪くありません!」
「な……」

 新田は怒りをあらわに立ちあがろうとした。が、木島に肩を押さえつけられた。木島は腕時計に目を走らせて言った。
「とにかく、もうすぐ会議だ。新田君、報告書のほうはできあがってるのかね?」
「あの、じつはそのことで……」
「私は“準備できてるのか”と聞いているんだ。イエスかねノーかね?」
「は、はい。あと10分ほどで……」
「おいおい、会議に間に合わないじゃないか」
「申し訳ございません」
「部下と喧嘩するひまがあったら、そういうことを先にきちっとやってくれたまえよ。君ほどのベテランがいったいどうしたんだ?」
「は、まことに……、申し訳ございません」

 新田は30部のコピーを抱えると、木島と早川を顧みることなく、営業部フロアーの隅に設けられた打ち合わせブースへ駆けこんだ。やや広めのテーブルにコピーの束を並べると、ホッチキスを外しページを正しはじめた。呆然とした頭とは裏腹に、手だけがけなげに動いた。と、突然目に熱いものがにじんだ。頭の中で、早川の不明瞭な言葉がわんわんとうなった。
 “ユカタオヤジ……”

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