2005年07月24日
ラブ・フォーティ 第11話 〜ケロイド〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第10話より続く
藤永が微笑んだ。
「子供のとき、ここへよく釣りに来たんですよ」
「君は東京生まれか」
「はい。四谷の愛住町というところです。なぜかお寺がかたまって建っているんですよ。僕らは学校が終わると、自転車に乗って靖国通りをまっしぐらにここへ来るわけです。途中、自衛隊の前を通るんですが、正門に立っている隊員がときどき銃を撃ってくるっていうのが、ワルガキたちの間のもっぱらのウワサで、みんな緊張しながら自転車をこいだものです」
ふたりはささやかに笑った。
藤永が小石をもうひとつ投げこんだ。
「小学5年生のときでした。ある日、いつものようにここへ釣りに来たんです。その日は友だちがみんな都合が悪くて、僕ひとりでした。1番ぼりへ行ってみました。2番、3番に比べて1番ぼりはあまり釣れないので、ふだんは行かないんですが、その日はなんとなく釣れそうな気がしたんですね。
勘が的中しました。糸をたらして、まもなく浮きが水中深く吸いこまれたんです。勇んで竿を立てると、強い手応えとともに15センチほどのフナが上がってきました。この濠でフナはたいへんな獲物です。声を出して喜びました。ところが、針をとるために魚を手にしてぎょっとしました。頭の半分がケロイドのようになっていて目がつぶれていたんです。
僕はそいつをビニールバケツに入れると家へ持って帰りました。親に“病院で治療して薬をあげたい”って言ったら、“捨ててこい”って気持ち悪そうに言われましたよ。“そんな魚のためにお金は使えない”って。そのとき僕は子供心に、大人ってイヤだなと思ったのを覚えてます」
「それで、その魚は?」
「ここへ連れて帰りました。最初は1番ぼりに戻すつもりだったんですが、ふと、違う世界で泳げば病気がなおるんじゃないかと思ったんです。それで……」藤永は細い顎を前に突きだした。「この3番ぼりに放したんですよ。ひょっとすると、いまごろ、そいつの子供か孫が泳いでるかもしれませんね。いたら、顔を出せ!」
言いながら藤永は力まかせに小石を投げた。遠くの水面で飛沫がかすかに上がった。
藤永が振りかえった。
「新田さん、きょうは社に戻るんですか?」
「い、いや、きょうはもう終わりだ」
「そうですか。では、どうですか、軽く飲(や)っていきませんか?」
藤永の口ぶりから、彼はきょうの一件を知らないと新田は思った。それが救いのように思えた。うなずいた。
続き(第12話)を読む
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第10話より続く
藤永が微笑んだ。
「子供のとき、ここへよく釣りに来たんですよ」
「君は東京生まれか」
「はい。四谷の愛住町というところです。なぜかお寺がかたまって建っているんですよ。僕らは学校が終わると、自転車に乗って靖国通りをまっしぐらにここへ来るわけです。途中、自衛隊の前を通るんですが、正門に立っている隊員がときどき銃を撃ってくるっていうのが、ワルガキたちの間のもっぱらのウワサで、みんな緊張しながら自転車をこいだものです」
ふたりはささやかに笑った。
藤永が小石をもうひとつ投げこんだ。
「小学5年生のときでした。ある日、いつものようにここへ釣りに来たんです。その日は友だちがみんな都合が悪くて、僕ひとりでした。1番ぼりへ行ってみました。2番、3番に比べて1番ぼりはあまり釣れないので、ふだんは行かないんですが、その日はなんとなく釣れそうな気がしたんですね。
勘が的中しました。糸をたらして、まもなく浮きが水中深く吸いこまれたんです。勇んで竿を立てると、強い手応えとともに15センチほどのフナが上がってきました。この濠でフナはたいへんな獲物です。声を出して喜びました。ところが、針をとるために魚を手にしてぎょっとしました。頭の半分がケロイドのようになっていて目がつぶれていたんです。
僕はそいつをビニールバケツに入れると家へ持って帰りました。親に“病院で治療して薬をあげたい”って言ったら、“捨ててこい”って気持ち悪そうに言われましたよ。“そんな魚のためにお金は使えない”って。そのとき僕は子供心に、大人ってイヤだなと思ったのを覚えてます」
「それで、その魚は?」
「ここへ連れて帰りました。最初は1番ぼりに戻すつもりだったんですが、ふと、違う世界で泳げば病気がなおるんじゃないかと思ったんです。それで……」藤永は細い顎を前に突きだした。「この3番ぼりに放したんですよ。ひょっとすると、いまごろ、そいつの子供か孫が泳いでるかもしれませんね。いたら、顔を出せ!」
言いながら藤永は力まかせに小石を投げた。遠くの水面で飛沫がかすかに上がった。
藤永が振りかえった。
「新田さん、きょうは社に戻るんですか?」
「い、いや、きょうはもう終わりだ」
「そうですか。では、どうですか、軽く飲(や)っていきませんか?」
藤永の口ぶりから、彼はきょうの一件を知らないと新田は思った。それが救いのように思えた。うなずいた。
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Posted by love40 at 15:18
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