2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第15話 〜ソファー〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第14話より続く

 新田は、まるで自分に言いきかせるようにぼそりと言った。
「いや、安斎は実力があったから1課の課長になった。僕にしたって……、宴会部長をやろうがやるまいが、実力相応のポジションにいるんだと思っている」
 藤永がため息まじりに言った。
「そうですか。それは新田さんご自身がお感じになることですから、僕がとやかく言うことではありません」新田のほうへ上半身をねじった。「しかし新田さん……、安斎さんのやり方というのはじつに巧妙ですよ。あの人は嘘や悪口で人をおとしいれるようなことはぜったいにしない。あの人は事実をそのまま使うだけですから」

 新田はギクっとして、ソファ−をきしませ藤永に体を向けた。
「いま、最後、何て言った? “あの人は……”?」
「あ……、“あの人は事実をそのまま使うだけ”と……」
“事実”という言葉が、新田の耳の中で響いた。と同時に、日下部律子の言葉をまた思いだしていた。
“早川久美のいちばん恐ろしい点は、彼女には事実はあるけど真実というものがないことよ”
 藤永の言葉と日下部の言葉が、新田の頭の中で絡みあった。

 その絡みあいを打ち消すように言った。
「藤永君、君はちょっと考えすぎじゃないのか? かりに僕のケースが、君の言っているようなことに当てはまるとしても、それはたまたまのことで、安斎がいつもそういうことを故意にやっているわけではないだろう?」
 藤永は自分の顔の前でわずかに手を振った。
「ところが、そうではないようなんです。じつは新田さんの話をしてくれたその人も、被害者のひとりなんです」
「……そろそろ教えてくれよ、“その人”の名前を」

 新田は身を乗りだした。新田の勢いに、藤永は苦笑した。
「芳賀課長ですよ」
「芳賀さん?」
 新田の驚いた声に、藤永は目でうなずいた。
 営業2課課長・芳賀修は新田より3歳上だった。色黒の顔に太い眉、野太い声を岩のような体から発する、心身ともに体育会系の豪胆な男だった。その男が何やらスパイまがいの話を自分の部下にするとはにわかに信じがたかった。
「どうして芳賀さんはそんな話を君にしたんだ?」

「芳賀課長という人は、とても正直ですからね」
「正直だからと言って、そういう微妙なことをぺらぺらしゃべりまくる人ではないはずだが」
「おっしゃるとおりです。ただ僕って、そういうのを聞きだすのがとてもうまいんですよ」
 藤永の得意げな物言いに、新田はなんとも言えぬ違和感を覚えた。自分が身につけている常識とはまったく異なったものを、藤永の中に発見してしまった感じだった。
 新田はおそるおそる尋ねた。
「ところで藤永君。……君の目的はいったい何なんだ?」

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