2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第19話 〜セクハラ〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第18話より続く

 木島がおびえた声を上げた。
「な、何か、ありましたでしょうか?」
 神岡は部屋に一歩踏みこむと、後ろ手に扉を閉めた。声ががくんと弱々しくなった。
「いま私のところに、早川久美の弁護士と名乗る人物から電話が入った。早川久美が職場で不当に扱われている可能性がある、よって事実確認をしたいとのことだ。どういうことなんだね? 君たちは彼女にそれほどひどい扱いをしていたのかね?」
 木島が跳びはねるように立ちあがった。
「と、とんでもありません。そんなことは……」

 神岡は木島の言葉を手でさえぎり、新田を見おろした。
「きのうの彼女の話では、君は自分のミスを彼女になすりつけたうえに脅したそうじゃないか」
 新田は青ざめた顔を神岡に向けたまま、よろよろと直立した。とんでもないことがのしかかってきているのだ、と思った。が、早川ならどんな非常識なことでも起こしかねない、それがいま実際に起こっているだけだ、と妙に納得するのも早かった。
 口を開いたときには、新田はすでに恐慌から立ち直っていた。
「早川君からどのようにお聞きになっているかは存じませんが……」
 新田は事の成りゆきを冷静に述べた。神岡は思慮をこめて耳を傾けていた。小部屋で三人の男が立ったまま言葉を交わしていた。

 聞き終えた神岡は深くうなずいてから、新田を正視した。
「新田君は今年で何年になるかね?」
「18年になります」
「そうか。君がいままで誠実に勤めてきたことは、この私も知っている。念のために聞くが、君の言ったことを本当に信じていいんだね?」
 新田も神岡を正視した。
「はい」
 神岡の視線が木島に移った。
「木島君はどう思うかね?」
「はい、長年共に働いてきた新田君に限ってそのような不祥事はないと……」
「そうかね。とりあえず私はこのことを役員に報告して対策を講じておかなければならない。雇用機会均等だとか、セクハラだとか……、何が飛びだしてくるかわかったもんじゃないからな。きょうのところは、ふたりともできる限り社内にいてくれたまえ。いつでも応じられるようにな」

 神岡はきびすを返し扉に手をかけた。木島がおそるおそる声をかけた。
「あの、部長。もしかすると早川君はちょっと病気なんじゃないでしょうか」
 振りかえった神岡の顔が険しくなった。
「しっ。木島君、滅多なことを言うもんじゃない」
「はっ、たいへん失礼しました」
 神岡が出ていくと、木島は崩れるようにソファーに座った。新田もため息とともに腰をおろした。
 木島が新田のほうへ顔を突きだし、声をひそめて言った。
「部長はああおっしゃるけど、この程度のことで弁護士騒ぎにするなんて、どう考えても早川は尋常じゃないよ。被害妄想か何か、きっと病気、病気だよ」

 新田は首をかしげながら言った。
「変な言い方ですが、病気なら幸いです。病気なら治療がほどこせますが、彼女は正常のような気がします。それだけに始末が悪いのでは……?」
「おいおい、あんまり気味の悪いことを言うなよ」
 木島が首をすくめた。
 新田の耳はすでに木島の言葉をとらえていなかった。そのかわり、弁護士が言ったという“事実確認”という言葉に引っかかっていた。

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