2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第21話 〜セクション〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第20話より続く

 園田弁護士が老眼鏡をはずしながら北見弁護士に言った。
「会社における慣習的な視点と、個人における感性的な視点の、微妙なくい違いを扱った、たいへんデリケートな問題と思われますね」
「なるほど」
 北見は肯定も否定もしなかった。

 園田は隣席の春日に顔を向けた。春日は意味ありげにうなずき、園田にこの場を一任することをほのめかした。
 園田は、北見弁護士とうつむいたままの早川久美に、視線を振りわけながら言った。
「北見弁護士が冒頭でおっしゃっていることに従いますと、早川さんはこれからも末長く多喜食で働くことを望み、そのためにはご自身の就業環境をいたずらに損なうことのないよう、今回の件をすみやかに解決したいとの旨ですが、間違いないでしょうか?」
「間違いありません」
 北見が答えた。早川はうつむいたまま小さくうなずいた。

 それを確認してから園田は続けた。
「その点をじゅうぶんに理解したうえで、双方が遺漏なく歩み寄ることができるように、今回の話し合いの趣旨をできる限り明確にしたいと思いますが、いかがなものでしょうか?」
 北見がうなずき口を開いた。
「わかりました。では単刀直入に申しあげます。依頼人の希望はひとつです。つまり、仕事上における、新田氏と早川氏との直接的な関係の解消です。要するに、新田氏の下では働きたくないということです。このことに関しては、これまで一度ならず第3課課長の木島氏にその意志を伝えたことがあると依頼人は申しております」

 園田は神岡営業部長を目の端でうかがった。神岡は首をわずかにかしげ、知らなかったことを伝えた。
 園田は、お茶をひとすすりしてから言った。
「“希望はひとつ”とのことですが、それは“新田氏の下では働きたくない”ということで、言い換えれば、早川さんが新田課長補佐の下から離れ、ほかのセクションで勤務できるようになれば解決する、ということでしょうか」

 それまでうつむいていた早川久美が突然顔を上げた。一重まぶたをのせた大きな目はやや吊りあがり、目尻からこめかみにかけてうっすら血管の青みが皮膚に透けて見えている。薄い唇を尖らせ、かん高い声を発した。
「私は何も悪くありません。悪くない私が、なぜセクションを変えられるんですか? 私は納得できません。それに私の夢は、営業部で1日も早く一人前になることです。だからこそ今までその営業部で一生懸命勤めてきたのに、なぜ私が新田課長補佐の犠牲にならなきゃいけないんですか?」
「な……」
 いらだたしげに聞いていた神岡営業部長が危うく声を荒らげそうになった。隣に座っている春日専務が、とっさに神岡の膝を押さえつけた。

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