2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第22話 〜ポイント〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第21話より続く

 園田弁護士が早川に向かって穏やかに話しかけた。
「ということは、新田課長補佐をほかのセクションに移せとおっしゃりたいんですか?」
「はい、当然だと思います。私は何も悪くないんですから」
 園田の顔つきがいくぶん固くなった。
「その点につきましては、早川さんが入社時に承認している多喜食の職務規定にもありますように、その第18条に“理由のいかんを問わず、雇用主は配転の権利を有し、配転命令を下すことができる。また命令を受けた被雇用者はそれにすみやかに従わなければならない”とあります。つまり、配転に関しては雇用主が最善を尽くして決定するものですから、ここはひとつ会社側の判断に従っていただくことをご了解いただきたいと思います。早川さんの申し立てのポイントは“新田課長補佐の下では働けない”という点であることを双方の合意点として解決に向かいたいと思いますが、いかがなものでしょうか」

 北見弁護士が薄ら笑いを浮かべ、底意地の悪い声を発した。
「もしかすると私の説明に不備があったのかもしれませんが、皆さんは多少誤解なさっているようです。皆さんは、このたびの件を、新田氏と依頼者の二者間における問題と理解されているようですが、まったく違います」
「違う?」
 春日専務の顔に困惑が広がった。
 それを面白そうに眺めながら北見はうなずいた。
「はい。問題の比重は新田氏自身にあるのです。冒頭で事実確認をしましたのも、つまりは、新田氏の素行と申しますか、あるいは新田氏の人間性と申しますか、その点を厳正に評価したうえで処置を考えていただきたいということです」

「おっしゃっていることが、よくわからないのですが。できれば説明を加えていただきたいのですが」
 園田が聞いた。
 北見がうなずいた。
「要するに、先ほどの事実確認でも明らかなように、何かと問題のある新田氏に対し、多喜食はどのような態度をとるのか――その点こそ重要で、そこに多喜食の組織としての良識度が問われているのではないでしょうか。よもや新田氏を今のままのポストに据えっぱなし、つまりは“お咎めなし”などということはないだろう、と私どもは考えている次第です。これでじゅうぶんご理解いただけたのではないでしょうか? ことは、新田氏対依頼者という私的問題ではなく、新田氏対多喜食という公的問題だ、と申しあげたいのです」

 園田が言った。
「つまり、早川さんの申し立てである“新田課長補佐の下を離れたい”というのは、それ自体が目的なのではなく、新田氏が社命で異動することなどによって結果的に成就するだろう、とおっしゃりたいんですね、北見先生のお考えでは」
 北見が園田に軽く頭を下げ、上目づかいで言った。
「さすがは多喜食の顧問でいらっしゃる。ご聡明この上ない。まさにそのとおりです。ええ……、早川氏の希望に対して、そちらの見解をただちに明らかにすることは難しいと思われますので、ひとまずご検討いただく時間を置いたのちに、改めてお会いしたいと思いますが……。もしほかになければ、きょうのところはこの辺で引きあげたいと思います。次回のお話しあいが実り多きものになりますよう、建設的な回答をお待ち申しあげます」

 話しあいは30分足らずで終わった。北見は、多喜食側の回答をすみやかに出すことを要求し、具体的には“一週間以内”という期日が設けられた。それまでの間、早川、新田両名は従来どおりの勤務につくことで合意した。ただし、早川久美の心理的動揺を考慮し、新田真一は彼女に対する直接的な会話は極力避けるよう要求され、多喜食側は同意した。
 また、きょうの午後は勤務する予定だった早川は、本人の希望により急きょ休暇扱いとし、北見とともに帰途についた。

続き(第23話)を読む

人気blogランキングに参加しています