2005年07月24日
ラブ・フォーティ 第25話 〜ギャップ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第24話より続く
神岡が、何か忌まわしいことを口にするかのように声をひそめて言った。
「ところで、この早川久美ですが、2年間に11回体に触られたとか……、ちょっと気持ち悪いですね。入社して2年間、彼女は新田君に体を触られるたびに数えていたんでしょうか?」
園田が答えた。
「おそらくそうだと思います」
「触られた1回目から、この男に触られたら回数をカウントしておこうと思ったわけですか?」
「そういうことになります。ただカウントしていたのは新田課長補佐に対してだけとは限りませんよ」
神岡はぞっとして思わず首のあたりをこすりながら、いっそう声をひそめて言った。
「彼女、病気ではありませんかね?」
園田は平然と答えた。
「几帳面な人なら、たとえば日記に日々のことを事細かに記すようなことはありますから、異常行為とは断定しにくいですね。ましてや、彼女を精神疾患者として、こちら側の有利な材料にすることはほぼ不可能だと思います。それよりも神岡さん、そのたぐいの表現は慎重におこなってください。名誉毀損で訴えられたりでもしたら2次災害になりかねませんから。関係社員の方々にも、くれぐれも軽率な発言はしないよう注意してください」
神岡の顔が一瞬にして青ざめた。
「わ、わかりました。しかし、なんと厄介な……」
「確かに厄介です。早川久美という人間が異常かどうかははなはだ疑問ですが、彼女が事実に固執するタイプであることは間違いないと思います。このようなタイプの人は、事実の意味を探究するのではなく、事実を物質のように扱う傾向があるようです。たとえば、相手が体に触ったのであれば、相手がなぜ触ったのかを考えることはなく、触ったという事実だけが突出して記憶に刻まれる。相手を非難するとき“触ったのは事実でしょ。どんな言いわけをしようと、事実は事実”と一歩も引きさがらない。
たしかに事実は存在するわけですから、ひるむことがない。じつに堂々としている。先ほど早川さんが“私は悪くありません”と断言している姿は、まさにそれですね。この文面に連なる“事実確認”からも、彼女の性格がにじみ出ているように思えます。この文面を読むかぎりは、新田氏がモラルに反した人物であると思われても致し方のないことではないでしょうか。
しかし、いまのおふたりの話をうかがうかぎりでは、新田氏がそういう問題のある方とは思えない。このギャップがじつに恐ろしい」
春日が園田弁護士に聞いた。
「ところで、北見弁護士というのはどんな人なんでしょうか?」
「頭は切れそうですね。ただ……、こういう言い方は失礼かもしれませんが、暮らしには恵まれていない感じがしますね。弁護士もお客様商売ですから、どんなに優秀でもお客様に恵まれないと、はたから思う以上に苦しい生活をしいられることがあります。たとえは悪いかもしれませんが、北見弁護士を見ていると、時代劇に出てくる凄腕の浪人のような感じがしますね。乱戦になればなるほど力を発揮しそうです。ですから、本件をできる限りこじらせないよう万全を期する必要があると思います」
「なるほど。こじらせないように、ですか……」
春日は消え入るような声でつぶやくと、そのまま黙りこんだ。
応接室に静寂が満ちた。
園田と神岡は、春日専務の次の言葉を待った。
続き(第26話)を読む
人気blogランキングに参加しています
第24話より続く
神岡が、何か忌まわしいことを口にするかのように声をひそめて言った。
「ところで、この早川久美ですが、2年間に11回体に触られたとか……、ちょっと気持ち悪いですね。入社して2年間、彼女は新田君に体を触られるたびに数えていたんでしょうか?」
園田が答えた。
「おそらくそうだと思います」
「触られた1回目から、この男に触られたら回数をカウントしておこうと思ったわけですか?」
「そういうことになります。ただカウントしていたのは新田課長補佐に対してだけとは限りませんよ」
神岡はぞっとして思わず首のあたりをこすりながら、いっそう声をひそめて言った。
「彼女、病気ではありませんかね?」
園田は平然と答えた。
「几帳面な人なら、たとえば日記に日々のことを事細かに記すようなことはありますから、異常行為とは断定しにくいですね。ましてや、彼女を精神疾患者として、こちら側の有利な材料にすることはほぼ不可能だと思います。それよりも神岡さん、そのたぐいの表現は慎重におこなってください。名誉毀損で訴えられたりでもしたら2次災害になりかねませんから。関係社員の方々にも、くれぐれも軽率な発言はしないよう注意してください」
神岡の顔が一瞬にして青ざめた。
「わ、わかりました。しかし、なんと厄介な……」
「確かに厄介です。早川久美という人間が異常かどうかははなはだ疑問ですが、彼女が事実に固執するタイプであることは間違いないと思います。このようなタイプの人は、事実の意味を探究するのではなく、事実を物質のように扱う傾向があるようです。たとえば、相手が体に触ったのであれば、相手がなぜ触ったのかを考えることはなく、触ったという事実だけが突出して記憶に刻まれる。相手を非難するとき“触ったのは事実でしょ。どんな言いわけをしようと、事実は事実”と一歩も引きさがらない。
たしかに事実は存在するわけですから、ひるむことがない。じつに堂々としている。先ほど早川さんが“私は悪くありません”と断言している姿は、まさにそれですね。この文面に連なる“事実確認”からも、彼女の性格がにじみ出ているように思えます。この文面を読むかぎりは、新田氏がモラルに反した人物であると思われても致し方のないことではないでしょうか。
しかし、いまのおふたりの話をうかがうかぎりでは、新田氏がそういう問題のある方とは思えない。このギャップがじつに恐ろしい」
春日が園田弁護士に聞いた。
「ところで、北見弁護士というのはどんな人なんでしょうか?」
「頭は切れそうですね。ただ……、こういう言い方は失礼かもしれませんが、暮らしには恵まれていない感じがしますね。弁護士もお客様商売ですから、どんなに優秀でもお客様に恵まれないと、はたから思う以上に苦しい生活をしいられることがあります。たとえは悪いかもしれませんが、北見弁護士を見ていると、時代劇に出てくる凄腕の浪人のような感じがしますね。乱戦になればなるほど力を発揮しそうです。ですから、本件をできる限りこじらせないよう万全を期する必要があると思います」
「なるほど。こじらせないように、ですか……」
春日は消え入るような声でつぶやくと、そのまま黙りこんだ。
応接室に静寂が満ちた。
園田と神岡は、春日専務の次の言葉を待った。
続き(第26話)を読む
人気blogランキングに参加しています
Posted by love40 at 15:50
│Comments(0)




