2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第26話 〜ペナルティ〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第25話より続く

 春日が園田弁護士に顔を向けた。
「園田さんのお考えをお聞かせ願えないでしょうか?」
 園田は春日に深くうなずいてからテーブルの上の紙をつまみあげた。
「ここに書いてある事柄をひとつひとつ検証し反論することによって、新田課長補佐ならびに多喜食のモラリティを弁護することはできると思います。それによって、早川氏の申し立ての正当性を崩すことは可能でしょう。その結果、多喜食側は、両者の分離や新田氏の異動に応じないという態度をとることもできるようになります。ただし、この結果を導きだすためには、法廷闘争も辞さないという強硬な姿勢が必要になります。このことのために会社全体が大揺れになることを覚悟しなければなりません。とくに先方の北見弁護士と早川氏の性格を考えると、泥沼になることを覚悟しなければならないでしょう」

「そ、それは、まずい」
 神岡が思わず言葉を突っこんだ。
 園田が応ずるようにうなずいた。
「私もそう思います。言うまでもないことですが、早川氏を解雇に追いこむことはおそらく不可能でしょうから、すべてが決着したとしても、早川氏は営業3課に依然としているわけです。正義の問題ではなく、現実の問題として、新田氏と早川氏が共同作業をすることは“百害あって一利なし”ではないでしょうか。とすると、先方と争うまでもなく、新田氏と早川氏をすみやかに分離するほうが得策です。

 問題は、早川氏のもうひとつの希望です。つまり新田氏に対するペナルティです。私の見聞の限りで申しあげるならば、新田氏は社会常識の範囲で行動していると言って構わないでしょうから、その新田氏に何がしかの制裁を加えるのは適切ではないと思います。しかし、新田氏の正当性を立証するためには、先ほど言った法廷闘争をかいくぐらなければなりません。ということは、我々は、ふたつの道のいずれかを選ばなければならないということです。つまり、新田氏の地位保全のために法廷闘争を覚悟するか、多喜食の組織保全のために闘争を回避するか、です」

「闘争を回避するということは、具体的には?」
 神岡がふたたび言葉を突っこんだ。
 園田は眉間の皺を深めて答えた。
「すみやかに新田氏をほかのセクションに異動する、ということです」
「しかし、この6月なんて半端な時期にそんなことをしたら、それこそ社内じゅうで彼はさらし者になってしまうじゃないですか」
「致し方のないことです。それこそが早川氏の希望なのですから」
 そう言ってしまってから、園田はひどく後味の悪いものを感じていた。

 神岡が吐きすてるように言った。
「あの女たったひとりのために……」
 春日がやんわりと手の平を向けて神岡営業部長をなだめた。
「これから役員会で答えを出さなければならないが、いずれの道を選ぶにしても、現場を預かる神岡君はここしばらく心労の多いことと思う。大変だろうけど、ひとつ頑張って乗りきってほしい」
 3人は席を立った。

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