2005年07月24日
ラブ・フォーティ 第33話 〜ベル〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第32話より続く
晴美は35歳になるが、歳よりも若く見える。ゆるくウエーブのかかったロングヘアーが左右の肩に均等に流れ、前髪部分だけは後方に掻きあげるようにしている。ふっくらとした顔だち。鼻と口は小づくりだが、そのぶん、はっきりとした目が顔のバランスをよく見せている。
小学3年生の理沙は、母親をそのまま小さくしたような顔だちをしているが、目の占める比率はさらに大きく、その大きさはまるで好奇心の旺盛さを示しているかのようでもある。
そのつぶらな瞳が躍(おど)った。理沙はミートボールを刺した箸をそのまま父親に向け、おどけて言う。
「このごろお父さんは帰ってくるのが早いね。今週は毎日みんなで夕ご飯を食べたんだよ。飲みをがまんしてエライね」
父親が夜遅く帰ることに娘は無関心だと思っていたのに、どうもそうではなかったことを知って、新田は複雑な思いで苦笑した。
「でもね、お父さん、やせがまんはストレスのもとだよ。たまにはドウリョウとぱあっと飲んでストレスかいしょうしたほうがいいよ」
かたわらで妻が笑っている。新田は、皿の中の里芋の煮っころがしを箸で追っかけまわしていたが、その手を休め、娘に言った。
「お気遣いいただき、まことに痛みいります」
新田はうやうやしく頭を下げた。娘が首をかしげた。
「イタミイリマス?」
「つまり恐縮するってことだ」
「キョウシュク?」
妻が引きうけてくれた。
「あのね、理沙、“嬉しい”という意味なの」
「へええ。お母さん、教えてくれてイタミイリマス」
娘はそう言うなり立ちあがると、「ごちそうさま」を背中で言いながら子供部屋にすっ飛んでいった。
「理沙はえらく早食いだな。もうすこし落ちついて食べる習慣をつけたほうがいいんじゃないのか?」
「そうは思うんだけど、この時間に友だちから電話がかかってくるのよ。自分の部屋で話したいのね。私たちには聞かれたくないってわけ。小学3年生は、もうお年頃なのよ」
「どうしてこの時間なんだ?」
「塾とか宿題とか、お互いにいろいろスケジュールがあって、ゆっくりと話せる時間がなかなかないそうよ」
「学校で話せばいいじゃないか」
「学校だと、友だち同士の派閥というのがあって、心置きなく話せないそうよ」
「ふーん。しかし、人の家の食事時間に電話をかけてくるというのは、ちょっと失礼じゃないのか?」
新田の憤慨を見て、妻が含み笑いを浮かべて言った。
「あら、あなたも最近までは、その“人の家の食事時間”に帰ってこなかったのよ」
新田は不意を食らって目をむいた。新田が何か言おうと呼吸をためた瞬間、電話が鳴った。ベルは一度で絶えた。娘が子器で受けたようだった。ほら来た失礼な友だち、と妻はわざと楽しそうに言った。
子供部屋のドアが開いて、娘が顔をのぞかせた。
「お父さん、フジナガさんという人から電話」
「フジナガ?」
ぴんと来なかった。
電話機を耳に当て、相手の声を聞いて初めて“営業2課の藤永”ということに気がついた。意外な電話に驚くとともに、別のフロアーになって疎遠になりつつある営業部の人間の声が懐かしくもあった。
続き(第34話)を読む
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第32話より続く
晴美は35歳になるが、歳よりも若く見える。ゆるくウエーブのかかったロングヘアーが左右の肩に均等に流れ、前髪部分だけは後方に掻きあげるようにしている。ふっくらとした顔だち。鼻と口は小づくりだが、そのぶん、はっきりとした目が顔のバランスをよく見せている。
小学3年生の理沙は、母親をそのまま小さくしたような顔だちをしているが、目の占める比率はさらに大きく、その大きさはまるで好奇心の旺盛さを示しているかのようでもある。
そのつぶらな瞳が躍(おど)った。理沙はミートボールを刺した箸をそのまま父親に向け、おどけて言う。
「このごろお父さんは帰ってくるのが早いね。今週は毎日みんなで夕ご飯を食べたんだよ。飲みをがまんしてエライね」
父親が夜遅く帰ることに娘は無関心だと思っていたのに、どうもそうではなかったことを知って、新田は複雑な思いで苦笑した。
「でもね、お父さん、やせがまんはストレスのもとだよ。たまにはドウリョウとぱあっと飲んでストレスかいしょうしたほうがいいよ」
かたわらで妻が笑っている。新田は、皿の中の里芋の煮っころがしを箸で追っかけまわしていたが、その手を休め、娘に言った。
「お気遣いいただき、まことに痛みいります」
新田はうやうやしく頭を下げた。娘が首をかしげた。
「イタミイリマス?」
「つまり恐縮するってことだ」
「キョウシュク?」
妻が引きうけてくれた。
「あのね、理沙、“嬉しい”という意味なの」
「へええ。お母さん、教えてくれてイタミイリマス」
娘はそう言うなり立ちあがると、「ごちそうさま」を背中で言いながら子供部屋にすっ飛んでいった。
「理沙はえらく早食いだな。もうすこし落ちついて食べる習慣をつけたほうがいいんじゃないのか?」
「そうは思うんだけど、この時間に友だちから電話がかかってくるのよ。自分の部屋で話したいのね。私たちには聞かれたくないってわけ。小学3年生は、もうお年頃なのよ」
「どうしてこの時間なんだ?」
「塾とか宿題とか、お互いにいろいろスケジュールがあって、ゆっくりと話せる時間がなかなかないそうよ」
「学校で話せばいいじゃないか」
「学校だと、友だち同士の派閥というのがあって、心置きなく話せないそうよ」
「ふーん。しかし、人の家の食事時間に電話をかけてくるというのは、ちょっと失礼じゃないのか?」
新田の憤慨を見て、妻が含み笑いを浮かべて言った。
「あら、あなたも最近までは、その“人の家の食事時間”に帰ってこなかったのよ」
新田は不意を食らって目をむいた。新田が何か言おうと呼吸をためた瞬間、電話が鳴った。ベルは一度で絶えた。娘が子器で受けたようだった。ほら来た失礼な友だち、と妻はわざと楽しそうに言った。
子供部屋のドアが開いて、娘が顔をのぞかせた。
「お父さん、フジナガさんという人から電話」
「フジナガ?」
ぴんと来なかった。
電話機を耳に当て、相手の声を聞いて初めて“営業2課の藤永”ということに気がついた。意外な電話に驚くとともに、別のフロアーになって疎遠になりつつある営業部の人間の声が懐かしくもあった。
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Posted by love40 at 16:06
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