2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第35話 〜フロントウインドウ〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第34話より続く

 寝静まっている住宅街を抜け、幹線道路に出た。藤永はアクセルを踏みこんだ。
「ちょっと走りますので、その間、もしよかったら寝ていてください」
 新田はまたたくまに眠りこんだ。
 30分ほどで起こされた。
 依然として闇だった。まわりの景色はうっすらと輪郭をほのめかしているが、いたってあやふやである。
「ここは?」
「多摩川です。東京と神奈川の境になります」

 そう藤永に言われ、新田が目を凝らしてみると、確かにだだっ広い川がその両側に河原と土手をともなって横たわっている。新田が乗っている車は、土手の上の道路に止まっていた。
「で、僕らはこれから鮒(ふな)でも釣るのか?」
 新田の冗談めいた問いかけに、藤永が笑いながら首を横に振った。
「あそこです」
 フロントウインドウごしに、指をある方向へ差し向けた。
 新田は、闇にだいぶ慣れてきた目をさらに凝らした。藤永の指の先は延々と空間をつらぬき、100メートルほど先の大型架橋に行きついた。

「見えますか?」
「橋か?」
「はい。その下を見てください」
「下?」
「橋のたもとです」
 暗くて何も見えなかった。いくら目を凝らしても、そこはひときわ闇が溜まりこんでいて何も判別できなかった。藤永がCDを切った。いっきに静寂が耳を圧した。車内にはふたりの呼吸音だけがわずかに響いている。
「どうです、見えませんか?」

「何も」
 新田がかぶりを振った。藤永がそっとため息をついた。
「そうですか。確かにいるんですが……」
「“いる?” あそこに何かいるのか?」
「はい。じきに明るくなりますから、もうちょっと待ってください」
「おい、何が見えるんだ?」
 新田は焦れた。藤永はそれには応じず前方をにらんでいる。仕方なしに新田も橋のたもとあたりに視線をさまよわせた。

 薄墨色の空が色を帯びてきた。かすかに赤みを含んだ濃紺色が、東の空から全体へじわじわ広がっている。わずかながら橋の下の闇が薄らいできた。と、そのとき、新田はうごめくものを視野の中に感じた。
 橋の下には幅100メートルを超える川が流れていて、その両側にそれぞれ幅20メートルほどの川原が伸びている。
 うごめくものは、新田から対岸の、橋の下の川原にいた。
「何か動いている」
 新田のようやくの発見に、藤永の声が弾んだ。
「そう、それです」
「何だあれは?」
「わかりませんか?」
「……わからない」

続き(第36話)を読む

人気blogランキングに参加しています