2005年07月24日

ラブ・フォーティ 第41話 〜コンクリート〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第40話より続く

 車は土手の背をたどり、橋を渡り、渡り終えたところで道を折れ、そこで止まった。車を降りて藤永は大きな伸びをした。新田も深呼吸をしながらあたりを見まわした。
 橋のたもとは、背の高い雑草類が埃りをかぶって息苦しそうに繁茂している。橋の下に行くには、その雑草群を大きく迂回しながら土手を下りていかなければならない。
 藤永はさっさと下り始めた。
 新田は、藤永よりかなり遅れて下り始めた。練習中の突然の訪問に、気おくれしていた。

 藤永は、橋の下にさしかかると、自分の体が芳賀の視界に触れるような位置で立ちどまった。
 芳賀はすでにクールダウンに入っていた。ゆっくりとしたスウィングで、ボールを押し出すように打っていた。ボールは、橋の裏側に届かんばかりの高い放物線を描きながら壁に至り、そこからツーバウンドかスリーバウンドで芳賀のもとへ戻ってくる。芳賀は足を完全に止め、帰ってきたボールをふたたび押し出す。まるでボールをあやしてるかのようだ。そうこうしているうちに体が静まってくる。

 芳賀はすぐに藤永を発見した。藤永が上目づかいに一礼し、芳賀は「よう!」と太い声を響かせた。藤永の突然の訪問に驚いた様子もなく、芳賀はさらに数回ボールを打ってから終了した。芳賀の視線が、ボールから藤永へと移る。藤永にしっかり焦点を合わせてみると、その向こうに、新田が頭を掻きながら歩み寄ってくることに気がついた。そのとき初めて芳賀は驚いた顔をした。藤永に言った。

「きょうはお客さんか?」
「ええ、まあ」
 そう答える藤永の頭越しに、芳賀は声をかけた。
「これはまた珍しい!」
 新田は手を頭にのせたまま、ペコリと会釈した。
「おはようございます。僕に何か話があるそうで……」
「そうか。そう言われてここに連れてこられたのか。そりゃ大変だったな」芳賀は顎をしゃくりあげて藤永を指した。「こいつ、変なヤツだろ? 俺も最初はびっくりしたよ」

 新田は藤永の横に立ちどまり、横目で見ながらあいまいに笑った。
 芳賀はTシャツを着がえ、道具をバッグにしまいこんだ。それから水ぎわのコンクリートの段差に腰かけ、ふたりを隣に呼んだ。
 新田は、芳賀と藤永に挟まれるように座った。
 芳賀が新田の顔を覗きこんだ。
「いろいろ聞いたよ。早川ってのは相当タチが悪いな」
「ええ、まあ……」
「新田が営業を離れるってのは多喜食にとって損失だと思うがな。残念だよ」
「はあ」

「こういうときも“お悔み申しあげます”って言うのかい?」
 芳賀がそう言うと、藤永が口を突っこんできた。
「言わないと思います」
「わかってるよ、馬鹿。冗談だよ」
 芳賀と藤永の間で、新田はひっそりと笑った。
 芳賀が声を改めた。
「ところで“食研”のほうはどうだい?」
「静かですね」
「そうか。腕がなまっちまうな」
「ええ、まあ。……で、きょうはそういうお話で……?」

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