2005年07月24日
ラブ・フォーティ 第44話 〜インカレ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第43話より続く
「専務はテニスがお好きなんですか?」
「あの人はスポーツは何でも好きだっていう話だ。ただ社長への対抗意識からか、社長が“イエス”と言うものは、専務は“ノー”と言うらしい。ゴルフがそのいい例だ。社長主催のゴルフコンペなどは相当苦々しく思っているそうだ。もっとも、春日専務が不愉快に思うのも無理からぬ話で、社長は“くぬぎだ杯”と自分の名前を冠しているにもかかわらず全費用を会社に出させているわけで、公私混同もはなはだしいというわけさ。社長のそういうところを専務はとくに嫌っていたからな。
“春日杯”はあくまで専務個人のポケットマネーで開催されるもので、まあ、その辺をアピールして春日新時代の幕開けとしたいのだろう。その点テニスは、“高潔の人”春日のイメージにぴったりだよな。もちろん、それを考えたのは安斎だ。当然、安斎にとってもテニス大会は大いにメリットがある。なんといっても安斎自身がテニスがうまい。おそらく“春日杯”の栄えある優勝者は自分だと思っているはずだ。そこでさらに自分の名を売ろうということだろうな」
「その“春日杯”に出るために、芳賀さんはテニスを始めたというわけですか?」
「そう、ファイト・バックだ」
「“ファイト・バック”?」
「“反撃”という意味だ。ま、大げさに言えば“報復”って感じかな」
「安斎にファイト・バックする、ということですか?」
「そう、それ。安斎に報復するわけだ。雪辱戦だよ。野球の恨みをテニスで返してやる」
芳賀は晴れやかな顔で言い放った。
新田は言葉に詰まった。
それに気づいて芳賀が笑って言った。
「ガキみたいだろ? でも、おもしろそうだろ? あの安斎の泣きっ面を見てみたいじゃねえか」
「そのために毎日こうやって練習してるんですか?」
「そう。もう3年になる」
芳賀の答えに、新田はため息をついた。
「ずいぶん執念深いですね」
「スポーツというのは執念深くなければ強くならないんだよ。俺の野球が草野球で終わっちまったのも、その執念深さが足りなかったからだ」
「しかし、その馬力があれば、芳賀さんなら仕事で安斎にファイト・バックできるんじゃないですかね?」
「わかっちゃいねえなあ、新田は。さっき俺が言っただろ“野球の恨みをテニスで返してやる”って。俺はねえ、出世のためにスポーツをもてあそぶようなヤツを許せないんだよ。そういうヤツにはスポーツの本当の恐さを知ってもらうまでよ」
「安斎のテニスの腕前はどのくらいなんですか?」
「学生時代にインカレに出たことがあるらしい」
「“インカレ”?」
「そう。全日本学生テニス選手権大会」
「じゃあ、めちゃくちゃ強いじゃないですか」
「そうだよ」
「勝つ自信あるんですか?」
「90パーセントだめだろうな」
「じゃあ、ファイト・バックにならないじゃないですか」
「新田は本当にスポーツのことを知らんな。スポーツというのは、点を多く取ったほうが勝ちで、勝てばそれで何もかも満足できるというものではないんだ。格下の相手に思わぬ苦戦をしいられたりすると、たとえ点で勝っても、心の中は惨敗ということがよくあるもんだ。勝ったほうが悔やんで、負けたほうが晴れ晴れとしていることだってある。それがスポーツの不思議。スポーツは何が起こるかまったくわからんよ。それに数パーセントくらいは俺にだって、点の上でも勝つチャンスはある。だから格下の俺にもファイト・バックの可能性はじゅうぶんある」
芳賀は高らかに笑った。橋の下に響きわたった。
続き(第45話)を読む
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第43話より続く
「専務はテニスがお好きなんですか?」
「あの人はスポーツは何でも好きだっていう話だ。ただ社長への対抗意識からか、社長が“イエス”と言うものは、専務は“ノー”と言うらしい。ゴルフがそのいい例だ。社長主催のゴルフコンペなどは相当苦々しく思っているそうだ。もっとも、春日専務が不愉快に思うのも無理からぬ話で、社長は“くぬぎだ杯”と自分の名前を冠しているにもかかわらず全費用を会社に出させているわけで、公私混同もはなはだしいというわけさ。社長のそういうところを専務はとくに嫌っていたからな。
“春日杯”はあくまで専務個人のポケットマネーで開催されるもので、まあ、その辺をアピールして春日新時代の幕開けとしたいのだろう。その点テニスは、“高潔の人”春日のイメージにぴったりだよな。もちろん、それを考えたのは安斎だ。当然、安斎にとってもテニス大会は大いにメリットがある。なんといっても安斎自身がテニスがうまい。おそらく“春日杯”の栄えある優勝者は自分だと思っているはずだ。そこでさらに自分の名を売ろうということだろうな」
「その“春日杯”に出るために、芳賀さんはテニスを始めたというわけですか?」
「そう、ファイト・バックだ」
「“ファイト・バック”?」
「“反撃”という意味だ。ま、大げさに言えば“報復”って感じかな」
「安斎にファイト・バックする、ということですか?」
「そう、それ。安斎に報復するわけだ。雪辱戦だよ。野球の恨みをテニスで返してやる」
芳賀は晴れやかな顔で言い放った。
新田は言葉に詰まった。
それに気づいて芳賀が笑って言った。
「ガキみたいだろ? でも、おもしろそうだろ? あの安斎の泣きっ面を見てみたいじゃねえか」
「そのために毎日こうやって練習してるんですか?」
「そう。もう3年になる」
芳賀の答えに、新田はため息をついた。
「ずいぶん執念深いですね」
「スポーツというのは執念深くなければ強くならないんだよ。俺の野球が草野球で終わっちまったのも、その執念深さが足りなかったからだ」
「しかし、その馬力があれば、芳賀さんなら仕事で安斎にファイト・バックできるんじゃないですかね?」
「わかっちゃいねえなあ、新田は。さっき俺が言っただろ“野球の恨みをテニスで返してやる”って。俺はねえ、出世のためにスポーツをもてあそぶようなヤツを許せないんだよ。そういうヤツにはスポーツの本当の恐さを知ってもらうまでよ」
「安斎のテニスの腕前はどのくらいなんですか?」
「学生時代にインカレに出たことがあるらしい」
「“インカレ”?」
「そう。全日本学生テニス選手権大会」
「じゃあ、めちゃくちゃ強いじゃないですか」
「そうだよ」
「勝つ自信あるんですか?」
「90パーセントだめだろうな」
「じゃあ、ファイト・バックにならないじゃないですか」
「新田は本当にスポーツのことを知らんな。スポーツというのは、点を多く取ったほうが勝ちで、勝てばそれで何もかも満足できるというものではないんだ。格下の相手に思わぬ苦戦をしいられたりすると、たとえ点で勝っても、心の中は惨敗ということがよくあるもんだ。勝ったほうが悔やんで、負けたほうが晴れ晴れとしていることだってある。それがスポーツの不思議。スポーツは何が起こるかまったくわからんよ。それに数パーセントくらいは俺にだって、点の上でも勝つチャンスはある。だから格下の俺にもファイト・バックの可能性はじゅうぶんある」
芳賀は高らかに笑った。橋の下に響きわたった。
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Posted by love40 at 16:29
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