2005年07月24日
ラブ・フォーティ 第47話 〜スカート〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第46話より続く
新田は思わず腹を引っこめ口を“へ”の字に曲げた。女ふたりに言われるままになっている自分が情けなかったが、どうしようもなかった。なかばヤケになってビールをあおった。喉を通った冷たいものが、じきにたどり着く腹のあたりをそっと見おろし、その醜い膨らみに新田はあらためて愕然とした。
そんな新田を、冷ややかに見つめながら晴美が口を開いた。
「高校時代、私の親友にテニス部の人がいて、彼女がこんなことを言ってたわ。“テニスはとてもハードなスポーツなのに、やったことのない人に限って、優雅なスポーツだと思っている。中には、軟弱なスポーツと決めつける人もいるくらい。ろくに知りもしないくせに失礼しちゃう”って」
サラダのミニトマトを口に放りこみながら娘が聞いた。
「なぜ、その人たちはテニスを優雅なスポーツだと思うの?」
「貴族が発明したスポーツだと言われているから、そんなイメージがあるんじゃないかしら? それに、女子は“スコート”というスカートをはくんだけど、それも原因のひとつじゃないかしら。スカートをはいてやるスポーツってそんなにないから、見ていて可愛らしく見えちゃうんでしょうね」
「うん、それは言えてる。理沙もテニスの格好にはちょっと憧れてる」
娘の告白にやんわり微笑みながら晴美は言った。
「あのね、理沙。いまの日本の天皇陛下と皇后陛下は“テニスコートの恋”で結ばれて、そのころ大変なニュースになったから、昔の人はなおさらテニスをロマンチックなスポーツだと思うみたいよ」
「“テニスコートの恋”? それ、本当なの?」
9歳の娘の声がかわいらしくうわずった。
晴美の声も心なしか弾んだ。
「本当よ。天皇陛下が皇太子様のときに、軽井沢のテニスコートで美智子様と出会ったの。そしておふたりは恋に落ちたの。それで結婚されたのよ」
理沙の目が輝いた。
「じゃあ、テンノウヘイカとコウゴウヘイカは、テニスラブなんだ」
それまで黙って聞いていた新田が、つまらなそうに聞き返した。
「何だ、そのテニスラブって?」
「テニスがきっかけでレンアイしたんだから“テニスラブ”。私がいま発明した言葉よ」
理沙が鼻先をつんと上へ向け父親を見かえした。
晴美がため息まじりに言った。
「テニスラブねえ……。そんなふうに言われると、やっぱりロマンチックなスポーツに感じるわね」
“テニスラブ”の命名者は夕飯をすませると、意気揚々と席を立った。いつものように友だちとの電話タイムが待っていた。自分の部屋に向かいながら、さらに何かをひらめいた。これは大発見だ、と理沙は思った。子供部屋の前でくるりと振り返り、父と母に得意げに言った。
「ねえねえ、テンノウヘイカとコウゴウヘイカがテニスで結婚したんだったら、日本は“テニスの国”ってことになるんじゃないの?」
「あら、本当。理沙、それは大発見ね」
晴美が軽やかに笑った。
理沙も「へへへ」と自慢顔で笑った。
新田だけ、何がそんなに笑えるのかわからなかった。
続き(第48話)を読む
人気blogランキングに参加しています
第46話より続く
新田は思わず腹を引っこめ口を“へ”の字に曲げた。女ふたりに言われるままになっている自分が情けなかったが、どうしようもなかった。なかばヤケになってビールをあおった。喉を通った冷たいものが、じきにたどり着く腹のあたりをそっと見おろし、その醜い膨らみに新田はあらためて愕然とした。
そんな新田を、冷ややかに見つめながら晴美が口を開いた。
「高校時代、私の親友にテニス部の人がいて、彼女がこんなことを言ってたわ。“テニスはとてもハードなスポーツなのに、やったことのない人に限って、優雅なスポーツだと思っている。中には、軟弱なスポーツと決めつける人もいるくらい。ろくに知りもしないくせに失礼しちゃう”って」
サラダのミニトマトを口に放りこみながら娘が聞いた。
「なぜ、その人たちはテニスを優雅なスポーツだと思うの?」
「貴族が発明したスポーツだと言われているから、そんなイメージがあるんじゃないかしら? それに、女子は“スコート”というスカートをはくんだけど、それも原因のひとつじゃないかしら。スカートをはいてやるスポーツってそんなにないから、見ていて可愛らしく見えちゃうんでしょうね」
「うん、それは言えてる。理沙もテニスの格好にはちょっと憧れてる」
娘の告白にやんわり微笑みながら晴美は言った。
「あのね、理沙。いまの日本の天皇陛下と皇后陛下は“テニスコートの恋”で結ばれて、そのころ大変なニュースになったから、昔の人はなおさらテニスをロマンチックなスポーツだと思うみたいよ」
「“テニスコートの恋”? それ、本当なの?」
9歳の娘の声がかわいらしくうわずった。
晴美の声も心なしか弾んだ。
「本当よ。天皇陛下が皇太子様のときに、軽井沢のテニスコートで美智子様と出会ったの。そしておふたりは恋に落ちたの。それで結婚されたのよ」
理沙の目が輝いた。
「じゃあ、テンノウヘイカとコウゴウヘイカは、テニスラブなんだ」
それまで黙って聞いていた新田が、つまらなそうに聞き返した。
「何だ、そのテニスラブって?」
「テニスがきっかけでレンアイしたんだから“テニスラブ”。私がいま発明した言葉よ」
理沙が鼻先をつんと上へ向け父親を見かえした。
晴美がため息まじりに言った。
「テニスラブねえ……。そんなふうに言われると、やっぱりロマンチックなスポーツに感じるわね」
“テニスラブ”の命名者は夕飯をすませると、意気揚々と席を立った。いつものように友だちとの電話タイムが待っていた。自分の部屋に向かいながら、さらに何かをひらめいた。これは大発見だ、と理沙は思った。子供部屋の前でくるりと振り返り、父と母に得意げに言った。
「ねえねえ、テンノウヘイカとコウゴウヘイカがテニスで結婚したんだったら、日本は“テニスの国”ってことになるんじゃないの?」
「あら、本当。理沙、それは大発見ね」
晴美が軽やかに笑った。
理沙も「へへへ」と自慢顔で笑った。
新田だけ、何がそんなに笑えるのかわからなかった。
続き(第48話)を読む
人気blogランキングに参加しています
Posted by love40 at 16:33
│Comments(0)




