2005年07月25日
「酒と泪と男と会社」drink15:座談会
聞いた話によると、日本人は「座談会」というのがたいへん好きらしい。
「座談会」を辞書でひくと「何人かの人が集まって、何かの話題について、自由に話しあう会」(現代国語辞典・三省堂)となっている。したがって、事の是非や良否を最終目標としている「討論会」「ディスカッション」とは区別する必要がある。
辞書中「何人かの人」とは2人以上を指すのだろうけれど、2人の場合は「対談」、3人の場合は「鼎談(ていだん)」とも言う。
「対談」は2者の“対極性”により話を“ぶつけ合う”イメージが強く、「鼎談」以上は出席者全員の“円環性”により話を“転がし合う”というイメージがあるのだけれど、どうだろう。
日本人の「座談会」好きは、ある意味では筋金入りなのだそうで、古くは「連歌」にそのマインドを見いだすことができるようだ。
連歌は、2人以上の者が和歌の上の句と下の句を互いに詠み合って、つなげて行く歌遊びだ。日本人の「言葉を転がし合う」という技術は、このころより営々と育まれたもので、その辺の呼吸は、天才的な民族なのではないだろうか。調和のコツ、強調のツボを心得た集団、日本人。
その日本人が数人で飲むと、どうなるか……。
たとえば4人。職場の同僚が4人で飲んだとする。年齢は全員30代の半ば。わかりやすくするために、マージャンの卓を囲んでいるような配置で飲んでいるとして、それぞれを時計回りで「東(トン)」「南(ナン)」「西(シャー)」「北(ペー)」と命名する。
仕事帰りのその4人が、いつもの居酒屋で飲みはじめて1時間くらい過ぎた頃……
東と南が野球の話、西と北が仕事の話をしている。東・南は、自分たちがつくった草野球チームの話でひとしきり盛り上がり、次第にその話は少年時代の「プロ野球選手になりたかった」頃の昔話へと展開していくところだった。一方、西・北は互いの仕事の仕方をあれこれ評価し合っていたのだけれど、見解の相違から徐々に雲行きがあやしくなっていくのだった。
そんな西・北の様子に、南は気が気でない。
西・北の話は、仕事上の激論から、ついには人生論へと深みにはまってしまい、あげくには性善説と性悪説との壮絶な闘いにまで戦火は広がっていった。すでに、どちらかの価値観が折れない限り、終結の道はないというところまで突き進んでいる。
東は、早くから永世中立、絶対不干渉の立場を決め込んでいて、アタリメにマヨネーズを塗りたくりながら「こいつら、しょーこりもなく、またこれだ」と言わんばかりの表情で、西北紛争を横目で見ている。
ついに北が、西の「社内不倫歴」攻撃を開始し、場外乱闘になだれ込んだため、“善意の人”南がいっきに調停介入した。
「おいおい、やめろよ。声、でかいんだよ、2人とも」と南。東は永世中立的にアタリメをぐちゃぐちゃ噛みながら、3人のゆくえを傍観している。
南は真剣なまなざしを西・北に向け、懇願する「おまえらの気持ちもわからないでもないけど、場所が場所なんだから、そう熱くなるなよ!」
すると、西・北は驚いたように互いに顔を見合わせ、北が「俺たち、別に熱くなってなんか、いねーよなー」と言うと、申し合わせたかのようにすかさず西が「そのとおり」と相づちを打った。
東は、そのやりとりを見ながら「ああ、またいつものパターンだ」とため息をつく。
北はもったいぶって座り直すと、“善意の人”南に体勢を向け、攻撃を開始した。北はかなり酔いがまわっている。「どだい南はねえ、人の話に首を突っ込みすぎるんだよ。なあ西」「ああ。南、おまえその性格直したほうがいいぞ」と西までもが南をなじる……。
攻守、敵味方が、あっという間に変わり、さらにその後二転三転する。南・西・北3人のバトルロイヤルが始まったのだ。東は相変わらず永世中立で……。
彼ら4人は、ほとんど毎晩こうやって飲んでいるのだ。ほとんど毎晩こうやって飲んでいるということは、ほとんど毎晩こうやって口論をしながらも、最後には収束し、4人はいつもの4人に戻り、そしてまた日をあらためていつもと同じように飲み、口論しバトルロイヤルとなり、また収束する。
つまり、彼らは、確信犯なのである。予定調和の確信犯。ゆえに飲み、ゆえに喧嘩し、ゆえに収束する。彼らは、互いの「息」をよく知り、互いの「息」によく合わせ、目には見えない円環を形成しつつ、話を転がし合う。
要するに、日本人の酒宴は、何でもありの究極の座談会なのだ。連歌の時代から千年もつづいた「言葉転がし」というお家芸を継承しつつ、あわせて「酒転がし」「人転がし」しながら、きょうも飲む、そしてあしたも飲む飲む日本人なのだ。
まことに見事な円環のなかで、飲み、喧嘩し、収束し、また飲む。破壊もないかわりに生産もない円環世界。たしかに疲れることはあっても、挫折も敗北もないから、また参加して……
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「座談会」を辞書でひくと「何人かの人が集まって、何かの話題について、自由に話しあう会」(現代国語辞典・三省堂)となっている。したがって、事の是非や良否を最終目標としている「討論会」「ディスカッション」とは区別する必要がある。
辞書中「何人かの人」とは2人以上を指すのだろうけれど、2人の場合は「対談」、3人の場合は「鼎談(ていだん)」とも言う。
「対談」は2者の“対極性”により話を“ぶつけ合う”イメージが強く、「鼎談」以上は出席者全員の“円環性”により話を“転がし合う”というイメージがあるのだけれど、どうだろう。
日本人の「座談会」好きは、ある意味では筋金入りなのだそうで、古くは「連歌」にそのマインドを見いだすことができるようだ。
連歌は、2人以上の者が和歌の上の句と下の句を互いに詠み合って、つなげて行く歌遊びだ。日本人の「言葉を転がし合う」という技術は、このころより営々と育まれたもので、その辺の呼吸は、天才的な民族なのではないだろうか。調和のコツ、強調のツボを心得た集団、日本人。
その日本人が数人で飲むと、どうなるか……。
たとえば4人。職場の同僚が4人で飲んだとする。年齢は全員30代の半ば。わかりやすくするために、マージャンの卓を囲んでいるような配置で飲んでいるとして、それぞれを時計回りで「東(トン)」「南(ナン)」「西(シャー)」「北(ペー)」と命名する。
仕事帰りのその4人が、いつもの居酒屋で飲みはじめて1時間くらい過ぎた頃……
東と南が野球の話、西と北が仕事の話をしている。東・南は、自分たちがつくった草野球チームの話でひとしきり盛り上がり、次第にその話は少年時代の「プロ野球選手になりたかった」頃の昔話へと展開していくところだった。一方、西・北は互いの仕事の仕方をあれこれ評価し合っていたのだけれど、見解の相違から徐々に雲行きがあやしくなっていくのだった。
そんな西・北の様子に、南は気が気でない。
西・北の話は、仕事上の激論から、ついには人生論へと深みにはまってしまい、あげくには性善説と性悪説との壮絶な闘いにまで戦火は広がっていった。すでに、どちらかの価値観が折れない限り、終結の道はないというところまで突き進んでいる。
東は、早くから永世中立、絶対不干渉の立場を決め込んでいて、アタリメにマヨネーズを塗りたくりながら「こいつら、しょーこりもなく、またこれだ」と言わんばかりの表情で、西北紛争を横目で見ている。
ついに北が、西の「社内不倫歴」攻撃を開始し、場外乱闘になだれ込んだため、“善意の人”南がいっきに調停介入した。
「おいおい、やめろよ。声、でかいんだよ、2人とも」と南。東は永世中立的にアタリメをぐちゃぐちゃ噛みながら、3人のゆくえを傍観している。
南は真剣なまなざしを西・北に向け、懇願する「おまえらの気持ちもわからないでもないけど、場所が場所なんだから、そう熱くなるなよ!」
すると、西・北は驚いたように互いに顔を見合わせ、北が「俺たち、別に熱くなってなんか、いねーよなー」と言うと、申し合わせたかのようにすかさず西が「そのとおり」と相づちを打った。
東は、そのやりとりを見ながら「ああ、またいつものパターンだ」とため息をつく。
北はもったいぶって座り直すと、“善意の人”南に体勢を向け、攻撃を開始した。北はかなり酔いがまわっている。「どだい南はねえ、人の話に首を突っ込みすぎるんだよ。なあ西」「ああ。南、おまえその性格直したほうがいいぞ」と西までもが南をなじる……。
攻守、敵味方が、あっという間に変わり、さらにその後二転三転する。南・西・北3人のバトルロイヤルが始まったのだ。東は相変わらず永世中立で……。
彼ら4人は、ほとんど毎晩こうやって飲んでいるのだ。ほとんど毎晩こうやって飲んでいるということは、ほとんど毎晩こうやって口論をしながらも、最後には収束し、4人はいつもの4人に戻り、そしてまた日をあらためていつもと同じように飲み、口論しバトルロイヤルとなり、また収束する。
つまり、彼らは、確信犯なのである。予定調和の確信犯。ゆえに飲み、ゆえに喧嘩し、ゆえに収束する。彼らは、互いの「息」をよく知り、互いの「息」によく合わせ、目には見えない円環を形成しつつ、話を転がし合う。
要するに、日本人の酒宴は、何でもありの究極の座談会なのだ。連歌の時代から千年もつづいた「言葉転がし」というお家芸を継承しつつ、あわせて「酒転がし」「人転がし」しながら、きょうも飲む、そしてあしたも飲む飲む日本人なのだ。
まことに見事な円環のなかで、飲み、喧嘩し、収束し、また飲む。破壊もないかわりに生産もない円環世界。たしかに疲れることはあっても、挫折も敗北もないから、また参加して……
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Posted by love40 at 10:24
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