2005年07月25日

「酒と泪と男と会社」drink16:欠席裁判

職場での、酒の誘いを、あなたが断れきれない理由のひとつに“欠席裁判”というのがある。人が群れる限りは、必ず起こる“欠席裁判”。世にも恐ろしい“欠席裁判”とは……

たとえば、同じ課の人間がそろって飲みに行く話が決まり、あなたにも声がかかる。あいにく、その日あなたには約束が入っていた。「きょうはスキヤキだから、早く帰ってきてね、パパ」と子供に言われている。「子供と2人でスキヤキやってもつまらないから、絶対よ」と妻が合唱する。
スキヤキか、はたまた、飲みか…… あなたの気持ちはしばし揺れる。

目の前では同僚たちが帰り支度を始める。
あなたは決断を迫られる。「どうする、行くんだろ、おまえも」と、課でいちばん仲のいいヤツからダメ押しを喰らう。「あ、ちょっと待って。すぐ決めるから」などと言いながら、あなたはさらに10秒悩み、そして決める。「おし、オレも、参加!」。あなたは家に電話をする。営業1課全体で反省会をかねた飲み会が急きょおこわれることになった旨を伝える。
妻の、ため息。かくしてスキヤキパーティーはお流れ。子供のがっかりする顔が目に浮かぶ。

やるせない思いにつかの間ひたりながらも、この場合のこの判断はけっして間違っていないと、あなたは確信している。なぜなら、これであなたは“欠席裁判”を免れることができたのだから。
あなたは、よく知っている。職場の連中との飲み会を断ると、その夜どんなことが起きるかを。飲み会では“来なかった者”がどんな扱いを受け、いかに徹底的にやり玉にあがるかを。
やり玉のネタは何でもいい。酒のツマミのごとく、あればあるほど盛り上がるのだ。たとえば、こんな感じ──

「誘いには必ず応ずるアイツが、きょう来ないのはよっぽどのことがあるに違いない」→「そう言えば、最近、アイツ元気がないぞ」→「たしかに、何か悩みがありそうだもんな」→「あ、そうそう、この前、奥さんから何度も電話があったようだ」→「だろ、やっぱり。家で何かもめごとがあるんじゃないの」→「大きな声じゃ言えないけど、女ができたってウワサだぜ」→「やっぱりそうか。アイツ最近仕事に身が入ってないもんな」→「いや、仕事に身が入っていないのは、もともとだよ(笑)」→「アイツ仕事の段取り、すごく悪いもんな」→「損だよね、ああいうタイプ」→「はっきり言って、無能だもんな」→「おいおい、そこまで言うか」→「課長は、どう思います、アイツのこと?」→「いや、カレはマジメによくやってるんじゃないの」→「“マジメ”って、ほとんど“無能”の代名詞ですよ、課長」(一同、大爆笑)

──ということで、あなたは翌日から「女が原因で家庭不和」で「課長から無能と呼ばれた男」として再デビューすることになる。
“欠席裁判”の特徴は、欠席すれば“被告”、出席すれば“原告”という、じつに単純な二者択一にある。つまり、出席している限りは被告にならなくてすむ。ゆえに、飲みつづける限りあなたは有罪とはならない。ゆえに、あなたは家族の悲願であるスキヤキパーティを断ってでも飲みに行くわけだ。
おおむね会社の“つきあい”というのは、そういうものなのだ。

しかし、ちょっと待てよ。
あなたは、もうひとつの“裁判所”でも、同時に裁かれていることを忘れてはいけない。毎夜、あなたの家でも、あなたの“欠席裁判”は進行しているのだ。どちらで有罪を受けるかは、あなたの勝手。
ただ一言つけ加えておくと、会社はどんなに長くても20年か30年の期間だけれど、家族の裁判は終身の問題となることをお忘れなく。

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