2005年07月25日

S席17万円のコンサート・チケット


そのコンサート・チケットは、確か17万円だったはずだ。
プレミアムがついてそのような値段になったというのではない。掛け値なしの17万円。
20年ほど前の出来事だけど、そのチケットを“衝動買い”した日のことはいまだに忘れられない。

1987年、ベルリン・ドイツ・オペラの日本公演があるという知らせは、クラシックファンにとってはビッグニュースだった……らしい。「らしい」と書くところから推測していただけると思うのだが、僕はクラシックのことはぜ〜んぜんわからない。
したがって、そのベルリン・ドイツ・オペラによる演目がワーグナーの『ニーベルングの指輪』で、その『ニーベルングの指輪』というのは全4部作で構成されていて、その全4部作の上演時間たるや14時間以上にもなり、それゆえ通しで上演されることは滅多になく、通し上演する場合は4夜──序夜『ラインの黄金』、第1夜『ワルキューレ』、第2夜『ジークフリート』、第3夜『神々の黄昏』にわたっておこなわれる……ということなど、まったく知らなかった。

通常であれば、そのような情報は僕の耳には届かないはずなのだけど、あいにく友だちに一人どえらいクラシックマニアがいて、彼の熱心かつ執拗な吹聴によって、僕もいつのまにやら“ドイツの嵐”に巻き込まれてしまったのだ。
友人は顔を紅潮させ、目を潤ませ、声を嗄らして僕に言うのだ。
「こんな凄い機会は2度とないから、ぜひキミも観に行くべきだ!!」
と言われても、17万円という大金をかけるほど、僕にはワーグナーへ義理はない。「オレはいいわ」と軽くいなした。

すると、このクラシック野郎、しばらく考え込んでから、こう言った。
「全4部作を通し上演するのは、本場ドイツのバイロイト音楽祭くらいなんだよ。キミは17万円でドイツへ行けると思うのかい?」

「17万円でドイツ」……なぜか、この言葉にグラッときた。

クラシック野郎は二の矢を放ってきた。
「キミは17万円が高いと考えているらしいけど、『ニーベルングの指輪』は4夜なんだよ。4つコンサートへ行くと思えば、けっして高くないよ。リーズナブルだよ」

「4夜だからリーズナブル」……なぜか、またまたグラッときた。

クラシック野郎の三の矢は、こうだ。
「演出はゲッツ・フリードリヒだ。彼による演出は、これが最後だと思うよ。最後のチャンスだよ!」

「最後のチャンス!」……命中!

ゲッツ・フリードリヒが何者かは知らないけれど、最後のチャンスとあれば、とにかくあわてなくちゃいけない「わかった! これは何としてでも行かなきゃな! よし、17万かき集めるよ!」

そして僕らは『ニーベルングの指輪』を4夜にわたって観劇した。
僕の席のうしろに画家の横尾忠則氏が座っておられた。
わが生涯で最も忘れえぬ“衝動買い”だ。
なお、何かと話題になる『ロード・オブ・ザ・リング』との関係性だけど、『ニーベルングの指輪』の内容があまりにも複雑で、僕の頭では処理しきれない。17万円もの授業料を払ってるっちゅーのに!(涙) その辺のこと、誰か知ってます?


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