2005年07月26日

十八代目中村勘三郎の4分30秒


見よう見ようと思いながら見る機会がなかった映画『顔』を、レンタルしてきてやっと見た。
『どついたるねん』『王手』『新・仁義なき戦い』などを手がけてきた坂本順治監督の2000年度作品で、それまで男臭い世界を描き続けてきた彼が、女を主人公にして撮った“異色作”ということになる。

主演は藤山直美で、彼女の役どころは、家に閉じこもって洋裁の仕事をしている“行き遅れ”の中年女。急死した母親の葬式の日に、そりの合わない妹(牧瀬里穂)を殺害し、その後えんえんと続く逃亡の日々を演じている。
空虚な閉じこもり生活から一転し、波乱の逃亡生活を続ける中で生きる実感を初めて味わい、それにともなって美しく“変身”を遂げていく彼女はやがて……(あとは見てのお楽しみ、ということで)

藤山直美が、じつに見応えがあった。
が、きょうここで書くのは、この映画に出る中村勘九郎(現・中村勘三郎)のことだ。

中村勘九郎の役どころは、何もかも失敗した“クサレ男”で、たまたま行き会った中年女(藤山直美)をトラックの荷台でレイプするという“ヨゴレ”を演じる。
女はバージンのためパニックにおちいり、ことの途中で吐いてしまい中断するが、ふたたび中年同士がもつれ合うという、エグい場面が展開する。とは言っても、芸を極めるご両人がこなすのであるからポルノ仕立てではない。

中村勘九郎の出番は、女をトラックに引きずり込むところから、事を済ませて女が去るまでの約4分30秒。あからさまに言えば、レイプシーンだけ。それが布石となって後段もっと深い人格をこなす役どころ、というのではまったくない。ただ犯すだけの“ヨゴレ”役だ。

勘九郎改め勘三郎さんの演技を、ここでとやかく言うのはやめておく。
とにかくコクがある、とだけ申し上げて、あとはこの映画を見る方一人ひとりの楽しみにしておきたい。
それはそういうことにしておくけれども、僕はこの勘九郎さんを見て、ぶったまげた。これは何なんだろう? 役者魂ってヤツ? スゲーぞ、と。
400年続く大名跡を継ぐ男が演じるには、“世俗的な誤解”を受けそうなリスキーな4分30秒だ。パンツ姿になるその情けない男は、歌舞伎などに出てくる“非道徳で、かつ深みのある”男とは、わけがちがう。本当に、ただのクサレ男だ。

世紀の大襲名を数年後に控えた役者なら、「今はちょっと…」と“守り”に入りたいところだと思うのに、勘三郎さんは屈託もなくクサレ男を好演している。
勘三郎さんの信条である“攻め”の4分30秒ではないか、と僕は思った。

この映画『顔』は全編見応えがある。藤山直美を中心に、牧瀬里穂、岸部一徳、佐藤浩市、豊川悦司、大楠道代など、実力派揃いが演じ描く1時間3分。勘三郎さんの4分30秒を含め、もしよかったらご覧ください。

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