2005年07月31日
ラブ・フォーティ 第58話 〜クリア〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第57話より続く
ありあわせのスポーツウェアに着がえ、玄関を出ると、階段を駆けおりマンションのエントランスに飛び出した。
芳賀が腰に手を当てて待ちかまえていた。新田を見るなり一声した。
「ウォームアップ!」
芳賀が膝の屈伸運動を始めた。
新田は途惑いながらも従った。体を動かすと、体にしみこんでいるアルコール分をずっしりと感じた。
膝の屈伸、足首の回転、両腕の旋回、上半身の前後屈……。芳賀は黙々とおこなう。新田も見よう見まねでおこなう。
芳賀の額にさらに汗が噴き出す。新田の体も汗ばんできた。
「ラン!」
そう言い放つと、芳賀は新田を顧みることなく走り始めた。新田はあわてて追った。
とてもゆるやかなジョグで始まり、次第にスピードを上げていった。
ふたりは15分ほど無言で走った。
先を走る芳賀が顔半分だけ振り返った。
「もう二日酔いは消えただろう?」
そう言われてみて新田は初めて気がついた。不思議なほど完璧にアルコールが抜けていた。気分も悪くないし、飲んだあとの喉の渇きもない。そればかりではなかった。体がとても軽い。この足さばきのよさは、いったいどうしたことだろう。新田の顔が輝いた。
芳賀が聞いた。
「新田、心臓はどうだ?」
「信じられないほどラクですよ」
「呼吸は?」
「問題ありません。こうやって喋っていても平気です」
「ピッチ上げるぞ」
「はい」
速度がぐんと上がった。前からの風圧がとても気持ちよく感じる。わずかに芳賀が振り返り微笑んだ。新田もすばやく笑みを返した。
心拍数の安定をはっきり感じる。いまなら走りながら哲学書を読んでも頭に入りそうだ、と新田は思った。心身がクリアだ。走るというのはこれほどまでに人を覚醒させるものなのだろうか。
芳賀が前方を向いたまま叫んだ。
「新田、もっと上げられるか?」
「平気だと思います」
「腕振りを強くしろ」
「わかりました」
芳賀はストライドを大きくし同時にピッチを上げた。新田も難なく加速し追随した。
東の空がまたたくまに明るさを増してきた。新田の全身から汗が噴き出す。
芳賀が叫んだ。
「新田、ラストスパートだ」
「はい」
住宅街を抜けてから幹線道路の沿道を延々と走りつづけてきたふたりは、行きあたった川沿いの遊歩道に入りラストスパートをかけた。200メートルほど遊歩道をランすると、かなり大きな公園にぶつかった。
芳賀は速度をゆるめながら新田を導いて公園の中に入っていった。あとからついてくる新田に振り返り、顎をしゃくるようにして前方を見るよう命じた。ふたりの行く手にテニスコートがあった。
芳賀はフェンスをくぐり抜け、コートの中へさっさと入っていった。新田は入り口で立ちどまり、自分の足もとを見つめた。ランニングシューズで入ってもいいのだろうかとためらった。
「けさは特別だ。入れよ」
芳賀が笑った。
新田はややこわばった顔でうなずき、おそるおそるコートに足を踏みいれた。
両足をコートに着地させた瞬間、足もとからしびれるような快感が立ちのぼってきた。いままでに味わったことない、それでいて、どこか懐かしさの入りまじった快感だった。ひょっとすると自分はずっと前からテニスをしたかったのではないだろうか、と新田は思った。
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第57話より続く
ありあわせのスポーツウェアに着がえ、玄関を出ると、階段を駆けおりマンションのエントランスに飛び出した。
芳賀が腰に手を当てて待ちかまえていた。新田を見るなり一声した。
「ウォームアップ!」
芳賀が膝の屈伸運動を始めた。
新田は途惑いながらも従った。体を動かすと、体にしみこんでいるアルコール分をずっしりと感じた。
膝の屈伸、足首の回転、両腕の旋回、上半身の前後屈……。芳賀は黙々とおこなう。新田も見よう見まねでおこなう。
芳賀の額にさらに汗が噴き出す。新田の体も汗ばんできた。
「ラン!」
そう言い放つと、芳賀は新田を顧みることなく走り始めた。新田はあわてて追った。
とてもゆるやかなジョグで始まり、次第にスピードを上げていった。
ふたりは15分ほど無言で走った。
先を走る芳賀が顔半分だけ振り返った。
「もう二日酔いは消えただろう?」
そう言われてみて新田は初めて気がついた。不思議なほど完璧にアルコールが抜けていた。気分も悪くないし、飲んだあとの喉の渇きもない。そればかりではなかった。体がとても軽い。この足さばきのよさは、いったいどうしたことだろう。新田の顔が輝いた。
芳賀が聞いた。
「新田、心臓はどうだ?」
「信じられないほどラクですよ」
「呼吸は?」
「問題ありません。こうやって喋っていても平気です」
「ピッチ上げるぞ」
「はい」
速度がぐんと上がった。前からの風圧がとても気持ちよく感じる。わずかに芳賀が振り返り微笑んだ。新田もすばやく笑みを返した。
心拍数の安定をはっきり感じる。いまなら走りながら哲学書を読んでも頭に入りそうだ、と新田は思った。心身がクリアだ。走るというのはこれほどまでに人を覚醒させるものなのだろうか。
芳賀が前方を向いたまま叫んだ。
「新田、もっと上げられるか?」
「平気だと思います」
「腕振りを強くしろ」
「わかりました」
芳賀はストライドを大きくし同時にピッチを上げた。新田も難なく加速し追随した。
東の空がまたたくまに明るさを増してきた。新田の全身から汗が噴き出す。
芳賀が叫んだ。
「新田、ラストスパートだ」
「はい」
住宅街を抜けてから幹線道路の沿道を延々と走りつづけてきたふたりは、行きあたった川沿いの遊歩道に入りラストスパートをかけた。200メートルほど遊歩道をランすると、かなり大きな公園にぶつかった。
芳賀は速度をゆるめながら新田を導いて公園の中に入っていった。あとからついてくる新田に振り返り、顎をしゃくるようにして前方を見るよう命じた。ふたりの行く手にテニスコートがあった。
芳賀はフェンスをくぐり抜け、コートの中へさっさと入っていった。新田は入り口で立ちどまり、自分の足もとを見つめた。ランニングシューズで入ってもいいのだろうかとためらった。
「けさは特別だ。入れよ」
芳賀が笑った。
新田はややこわばった顔でうなずき、おそるおそるコートに足を踏みいれた。
両足をコートに着地させた瞬間、足もとからしびれるような快感が立ちのぼってきた。いままでに味わったことない、それでいて、どこか懐かしさの入りまじった快感だった。ひょっとすると自分はずっと前からテニスをしたかったのではないだろうか、と新田は思った。
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Posted by love40 at 07:20
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