2005年08月01日

ラブ・フォーティ 第59話 〜リズム〜

(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第58話より続く

 芳賀がコートサイドを小走りに進んだ。そして向こうのコートの端に立った。
「新田、サーブを打ってみろ」
 芳賀が叫んだ。いつのまにか芳賀の手にはラケットが握られていた。
 新田が途惑っていると、芳賀がコートサイドのベンチを指さした。ラケットとボールがそこにあった。
 新田はラケットを握ってみた。初めて持つのに、なぜか懐かしい感触が手の平に伝わってくる。新田の中にふつふつと力が湧いてきた。

 ボールをコートに打ちつけてみる。ガット面からコート、コートからガット面へと、ボールはバウンドをくり返す。テニスプレイヤーが最初におこなうボール運動。その運動から最もシンプルなテニスのリズムを感じとっていた。新田は無意識にそれを学習をしている。
 芳賀がふたたび叫んだ。
「新田、サーブだ!」
「やったことないんですよ!」
「じゃあ、俺のを見ていろ」

 芳賀は、2〜3度ボールをコートにバウンドさせてから、全身を静止させ、ひと呼吸の間集中するとボールをトスアップした。ボールが垂直に上昇し、そして落下を始める。ラケットは、テイクバックされたのち、芳賀の頭上でサーブ軌道を切りながら、落下するボールにまっしぐらに向かった。
 カッッ……
 気持ちのいい炸裂音を残し、打球は空気をえぐりながら、ぼうっと立っている新田の右横を突っきっていった。
 新田が悲鳴をあげた。
「うぉっ速い!」
「ゆるいほうだ」芳賀は無表情で言った。「新田、おまえの番だ」

 脳裡に残像した芳賀のサーブを手本に、とにかくやってみるしかなかった。ボールをバウンドさせる。深呼吸する。見よう見まねでスタンスをとる。
 トスアップ。
 テイクバック。
 インパクト。
 コッッ……
 気持ちのいい手応え。直進するボール。芳賀が声を上げた。何と言ったか新田には聞こえない。ボールが芳賀めがけて飛んだ。と思った瞬間、ネットにつかまった。

 芳賀がネットまで駆け寄りボールを拾いあげた。
「新田、いいじゃないか。おまえ本当に初めてか?」
「はい」
「ひょっとすると、おまえ、相当いい線まで行くぞ。もう一発打ってみろよ」
 新田の胸が高鳴った。
 新田はもう一度サーブ動作に入った。力の入れどころがわかったのか、ラケットスピードがはるかに増していた。これほどまでに自分の体が自在に動くとは思わなかった。体がしなった。目がボールを追う。ラケットが加速する。ガット面とボールが出くわした。思いきり叩く。
 カッッ……

 インパクトの瞬間、ラケットから手、手から腕、腕から全身へと、凄まじい快感がつっ走った。新田は驚いた。これほどサーブが気持ちのいいものだとは思っていなかったし、こんな気持ちのいいサーブをたった2打目で打てるとは思っていなかった。芳賀も、新田の鮮やかなサーブに度肝を抜かれていた。
 が、またもやネットだった。わずか数センチ低かった。芳賀が向こうコート・コーナーでラケットを叩きつけて惜しがる。
「新田、おまえ、そりゃ才能だよ。凄い。だけど、こっちに入らなきゃあ、どんなに速い球でもただのフォルトだ。失敗だ。さ、もう1球、打ってみろ!」

 インパクトの心地いい余韻を体の隅々に残し、興奮ぎみに新田はうなずいた。次は最高のサーブが決まる、と確信していた。なぜか絶対の自信があった。

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