2005年08月02日
ラブ・フォーティ 第60話 〜ライン〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第59話より続く
新田はひとつ深呼吸をし集中を高めた。サーブ動作に入る。トスアップとテイクバックはほぼ同時。早朝の青い空に黄色いボールが浮いた。その黄色い点めがけてラケットを振り出す。ガット面がボールに猛然と襲いかかった。渾身の力でぶっ叩いた。
クヮッッッ……
最高の手応えを感じながら、新田は飛び去るボールを目で追う。黄色い弾道がみるみる直線で伸びていく。「やった」と心の中で叫んだ。ボールはネットの上数センチをきれいに通過し、相手コートのサービスゾーンめざして突進していった。方向はセンターライン寄り、つまりコート・コーナーで守る芳賀からはいちばん遠い位置に決まりそうだ。
芳賀はラケットを構え、軽くピョンピョンと両足でステップして迎撃態勢に入っていたが、球筋に反応するやいきなり横ざまに跳んだ。ボールは地面に最鋭角で突入する。芳賀の目が険しくなる。ボールはやや軌道がふくらみ、サービスラインぎりぎりでバウンドしそうだ。ライン内なら最高のサービスエースになりそうだ。しかしラインを越えてしまえばフォルトだ。どんなに速い球でもフォルトはフォルト、ただのくそボールだ。
突然、新田の頭の中で声がした。誰かの声というより、無数の声が重なりあって響いているように聞こえる。
「この一球で、おまえのテニスの運命がわかる……」
芳賀は顔を正面に向けたまま体を左へねじり、迫りくるボールめがけて深く一歩踏みこんだ。踏みこみながら上半身をさらにねじり、右肩先をボールへ向けつつバックハンドストロークの態勢にすばやく入った。が、それでは間に合わないと判断し、球筋に向かって目いっぱいラケットを伸ばし体を投げ出した。
新田はゴクリと唾を飲み込んだ。決まれ、決まれ、決まれ、と念じた。ボールはなおもサービスラインとセンターラインの交差あたりに吸い寄せられるように突進する。線内か、線越えか、線内か、線越えか。
「うっ」といううめき声とともに芳賀の体勢がガクッと崩れた。限界を超えた芳賀の動きがついに破たんした。普通ならあきらめて見送ってしまうサービスエース級の豪球を、なんとしてでも打ち返そうとして全身に無理をしいたのだが、ほんの数センチ、球筋に追いついていない。芳賀は負けたと直感した。あとはラインに入るか出るかだ。芳賀の目が必死にボールを追う。
新田はボールだけ見ていた。芳賀の異変までとらえることはできなかった。ただ、祈った。決まれ、決まれ、決まれ……。ボールが接地まで数十センチになっても、あまりに薄い入射角度のため、線内か線上か線越えか着地点が見極められない。新田の頭の中で声が響く。
「新田、おまえは、どっちだと思う? サービスエース? それともフォルト? 運命はおまえの味方? それとも敵? どっちだ?」
新田は祈る。自分の運命、運命、運命……。 芳賀は倒れざまにラケットを振り出す。
ふたりは、ひとつのボールに願いをぶつけるように、ほとんど同時に絶叫した。と、その瞬間、ボールは……。
突然、理沙の声が新田の頭の中でワワンと響いた。
「お父さん、起きて、起きて! こんなところで寝てちゃダメ。お母さーん、お父さんたら居間で寝てるよ!」
理沙の顔があった。新田のすぐ目の前で、しかめっ面をしている。その顔が遠のいた。かわりに妻の顔が近づいた。その顔がため息をついた。そして遠のいた。
続き(第61話)を読む
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第59話より続く
新田はひとつ深呼吸をし集中を高めた。サーブ動作に入る。トスアップとテイクバックはほぼ同時。早朝の青い空に黄色いボールが浮いた。その黄色い点めがけてラケットを振り出す。ガット面がボールに猛然と襲いかかった。渾身の力でぶっ叩いた。
クヮッッッ……
最高の手応えを感じながら、新田は飛び去るボールを目で追う。黄色い弾道がみるみる直線で伸びていく。「やった」と心の中で叫んだ。ボールはネットの上数センチをきれいに通過し、相手コートのサービスゾーンめざして突進していった。方向はセンターライン寄り、つまりコート・コーナーで守る芳賀からはいちばん遠い位置に決まりそうだ。
芳賀はラケットを構え、軽くピョンピョンと両足でステップして迎撃態勢に入っていたが、球筋に反応するやいきなり横ざまに跳んだ。ボールは地面に最鋭角で突入する。芳賀の目が険しくなる。ボールはやや軌道がふくらみ、サービスラインぎりぎりでバウンドしそうだ。ライン内なら最高のサービスエースになりそうだ。しかしラインを越えてしまえばフォルトだ。どんなに速い球でもフォルトはフォルト、ただのくそボールだ。
突然、新田の頭の中で声がした。誰かの声というより、無数の声が重なりあって響いているように聞こえる。
「この一球で、おまえのテニスの運命がわかる……」
芳賀は顔を正面に向けたまま体を左へねじり、迫りくるボールめがけて深く一歩踏みこんだ。踏みこみながら上半身をさらにねじり、右肩先をボールへ向けつつバックハンドストロークの態勢にすばやく入った。が、それでは間に合わないと判断し、球筋に向かって目いっぱいラケットを伸ばし体を投げ出した。
新田はゴクリと唾を飲み込んだ。決まれ、決まれ、決まれ、と念じた。ボールはなおもサービスラインとセンターラインの交差あたりに吸い寄せられるように突進する。線内か、線越えか、線内か、線越えか。
「うっ」といううめき声とともに芳賀の体勢がガクッと崩れた。限界を超えた芳賀の動きがついに破たんした。普通ならあきらめて見送ってしまうサービスエース級の豪球を、なんとしてでも打ち返そうとして全身に無理をしいたのだが、ほんの数センチ、球筋に追いついていない。芳賀は負けたと直感した。あとはラインに入るか出るかだ。芳賀の目が必死にボールを追う。
新田はボールだけ見ていた。芳賀の異変までとらえることはできなかった。ただ、祈った。決まれ、決まれ、決まれ……。ボールが接地まで数十センチになっても、あまりに薄い入射角度のため、線内か線上か線越えか着地点が見極められない。新田の頭の中で声が響く。
「新田、おまえは、どっちだと思う? サービスエース? それともフォルト? 運命はおまえの味方? それとも敵? どっちだ?」
新田は祈る。自分の運命、運命、運命……。 芳賀は倒れざまにラケットを振り出す。
ふたりは、ひとつのボールに願いをぶつけるように、ほとんど同時に絶叫した。と、その瞬間、ボールは……。
突然、理沙の声が新田の頭の中でワワンと響いた。
「お父さん、起きて、起きて! こんなところで寝てちゃダメ。お母さーん、お父さんたら居間で寝てるよ!」
理沙の顔があった。新田のすぐ目の前で、しかめっ面をしている。その顔が遠のいた。かわりに妻の顔が近づいた。その顔がため息をついた。そして遠のいた。
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Posted by love40 at 08:16
│Comments(6)
この記事へのコメント
「運命はあなたの見方です!!」って言ってあげようと思ったら、えっ〜・・夢だったの!? 「しかめっ面」と「ため息」の味方します。
Posted by
ままぷりん
at 2005年08月02日 14:36
●●●ままぷりんさんへ●●●
>えっ〜・・夢だったの!?
はい、そうなんです。
なんてことでしょう!
>えっ〜・・夢だったの!?
はい、そうなんです。
なんてことでしょう!
Posted by
オヤジライター
at 2005年08月02日 18:42
同じく、えぇ〜夢だったのぉ〜です。
かなりショックだねーこれは。
新田さんてすごいんだ〜と思ってたのに…
こんな展開になるとは思いませんでした。
現実だとしたら初心者なのにうますぎかぁ。
かなりショックだねーこれは。
新田さんてすごいんだ〜と思ってたのに…
こんな展開になるとは思いませんでした。
現実だとしたら初心者なのにうますぎかぁ。
Posted by かあちゃん
at 2005年08月02日 22:09
●●●かあちゃんさんへ●●●
>現実だとしたら初心者なのにうますぎかぁ。
はい。
現実はキビシイのです。
でも・・・
>現実だとしたら初心者なのにうますぎかぁ。
はい。
現実はキビシイのです。
でも・・・
Posted by
オヤジライター
at 2005年08月03日 00:07
いきなりそんなうまくていいのっ!
って思ってたので、夢でナットク!
ところで質問が!
ランキングへの投票は、
「人気blogランキングに参加しています 」 を
クリックするだけで、いいのですか?
他にもどこかクリックしなくちゃいけないのですか??
(飛んだ先のページとかで?)
って思ってたので、夢でナットク!
ところで質問が!
ランキングへの投票は、
「人気blogランキングに参加しています 」 を
クリックするだけで、いいのですか?
他にもどこかクリックしなくちゃいけないのですか??
(飛んだ先のページとかで?)
Posted by hi-yo(ハイヨ)
at 2005年08月03日 00:10
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>「人気blogランキングに参加しています 」 をクリックするだけで、いいのですか?
はい、そこ をクリックするだけでOKです。そうしますと、ランキング一覧表のページに飛びます。投票完了です。なお、おひとり様1日1クリックのみ有効です。ちなみに1クリックで10ポイント加算されます!
ところで、かりにその画面からふたたび僕のページに戻るとしたら、おもに2つの方法があります。
1つは「戻る」ボタンをクリックする方法。
もう1つは、ランキング一覧表の僕のタイトルをクリックする方法で、こちらの方法だと補助ポイントのようなものが加算される仕組みになっているのですが、これはランキングにさほど影響ありませんので、気にしなくてけっこうです。
どちらの方法でもかまいませんので、お好きな方法で操作してください。
なにとぞよろしくご協力ください。ありがとうございます!
>「人気blogランキングに参加しています 」 をクリックするだけで、いいのですか?
はい、そこ をクリックするだけでOKです。そうしますと、ランキング一覧表のページに飛びます。投票完了です。なお、おひとり様1日1クリックのみ有効です。ちなみに1クリックで10ポイント加算されます!
ところで、かりにその画面からふたたび僕のページに戻るとしたら、おもに2つの方法があります。
1つは「戻る」ボタンをクリックする方法。
もう1つは、ランキング一覧表の僕のタイトルをクリックする方法で、こちらの方法だと補助ポイントのようなものが加算される仕組みになっているのですが、これはランキングにさほど影響ありませんので、気にしなくてけっこうです。
どちらの方法でもかまいませんので、お好きな方法で操作してください。
なにとぞよろしくご協力ください。ありがとうございます!
Posted by
オヤジライター
at 2005年08月03日 08:15




