2005年08月07日
ラブ・フォーティ 第65話 〜コーチ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第64話より続く
主婦が思いつきでテニスを教えてほしいと頼みこんでくることはよくあることで、そういうケースにつきあうとキリがないのでタツエは即座に断ることにしている。ところが新田晴美という人は、自分ではなく、自分の夫のコーチをお願いしたいと言っている。タツエは、こんな申し出を受けたのは初めてだった。とにかく話を聞いてみることにした。晴美に尋ねた。
「ご主人のテニス歴は?」
「まだ1回もしたことがありません。ラケットを触ったこともないと言っていました」
「まったくの入門?」
「はい」
晴美の答えに、タツエはさらに驚いた。その気持ちを率直に告げた。
「ときどきレッスンしてくれという申し出を受けることはあるけれど、まったくの入門レッスンをお願いされたのは、正直言ってこれが初めてよ。入門だったら、テニススクールとかではダメなの?」
「そのつもりでスクール探しをしていたんですが、きのうあのお婆さんのことで偶然塚越さんと出会って、そのさい塚越さんのテニスバッグを偶然見たときから、私の中で“教えていただくならこの方だ”と決めていたような気がするんです。はっきりと意識していたわけではないのですが……。そしたら、先ほど自転車で走っていると、また偶然にコートの中の塚越さんをお見受けして……。偶然がいくつも重なって、こうやってお電話しているようなわけなのです」
「なんだか狐につままれたような話ね」
「そう言われると、確かにそうなのかもしれません。すべて偶然のことですから……。あっ……」
「どうしたの?」
「ひょっとすると、あのお婆さんを送っていった先に、稲荷神社がありましたけど、あのお婆さん、お稲荷さんの狐かもしれませんね」
大まじめに話す晴美の様子に、タツエは大笑いした。それに呼応するように晴美も恥ずかしそうに笑った。笑い声がまざりあって、ふたりの気持ちが急に近づいた。
タツエは晴美に興味を抱いた。そして、その晴美の夫にも興味が向いた。タツエは尋ねた。
「かりに私が教えるとして、スクールのコーチでもない普通のオバサンに、テニスを教えてもらうことにご主人は抵抗はないのかしら?」
「おそらくあると思います」
「それじゃあ、それなりの男のコーチでも見つけたほうがいいんじゃないの? なんなら私がご紹介しましょうか? 新田さんだって、自分の旦那が、女に手とり足とりテニスを教えてもらうなんて、たとえ私のような年寄りでも、ちょっと抵抗あるでしょ?」
「“年寄り”だなんて、とんでもない」
晴美が語気を強めて言った。
タツエがからかうように聞いた。
「私のこと、いくつだと思ってらっしゃるのかしら?」
「ええ……」
「女同士で歳の当てっこなんて悪趣味ね。やめましょう。私ね、今年で61」
「えっ?」
「そう、みんな“えっ?”って言うわね。でも本当。61歳。新田さんは?」
「35歳です」
「あ、そう。じゃあ、私たち親子ってところかしら?」
タツエが大らかに笑った。
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第64話より続く
主婦が思いつきでテニスを教えてほしいと頼みこんでくることはよくあることで、そういうケースにつきあうとキリがないのでタツエは即座に断ることにしている。ところが新田晴美という人は、自分ではなく、自分の夫のコーチをお願いしたいと言っている。タツエは、こんな申し出を受けたのは初めてだった。とにかく話を聞いてみることにした。晴美に尋ねた。
「ご主人のテニス歴は?」
「まだ1回もしたことがありません。ラケットを触ったこともないと言っていました」
「まったくの入門?」
「はい」
晴美の答えに、タツエはさらに驚いた。その気持ちを率直に告げた。
「ときどきレッスンしてくれという申し出を受けることはあるけれど、まったくの入門レッスンをお願いされたのは、正直言ってこれが初めてよ。入門だったら、テニススクールとかではダメなの?」
「そのつもりでスクール探しをしていたんですが、きのうあのお婆さんのことで偶然塚越さんと出会って、そのさい塚越さんのテニスバッグを偶然見たときから、私の中で“教えていただくならこの方だ”と決めていたような気がするんです。はっきりと意識していたわけではないのですが……。そしたら、先ほど自転車で走っていると、また偶然にコートの中の塚越さんをお見受けして……。偶然がいくつも重なって、こうやってお電話しているようなわけなのです」
「なんだか狐につままれたような話ね」
「そう言われると、確かにそうなのかもしれません。すべて偶然のことですから……。あっ……」
「どうしたの?」
「ひょっとすると、あのお婆さんを送っていった先に、稲荷神社がありましたけど、あのお婆さん、お稲荷さんの狐かもしれませんね」
大まじめに話す晴美の様子に、タツエは大笑いした。それに呼応するように晴美も恥ずかしそうに笑った。笑い声がまざりあって、ふたりの気持ちが急に近づいた。
タツエは晴美に興味を抱いた。そして、その晴美の夫にも興味が向いた。タツエは尋ねた。
「かりに私が教えるとして、スクールのコーチでもない普通のオバサンに、テニスを教えてもらうことにご主人は抵抗はないのかしら?」
「おそらくあると思います」
「それじゃあ、それなりの男のコーチでも見つけたほうがいいんじゃないの? なんなら私がご紹介しましょうか? 新田さんだって、自分の旦那が、女に手とり足とりテニスを教えてもらうなんて、たとえ私のような年寄りでも、ちょっと抵抗あるでしょ?」
「“年寄り”だなんて、とんでもない」
晴美が語気を強めて言った。
タツエがからかうように聞いた。
「私のこと、いくつだと思ってらっしゃるのかしら?」
「ええ……」
「女同士で歳の当てっこなんて悪趣味ね。やめましょう。私ね、今年で61」
「えっ?」
「そう、みんな“えっ?”って言うわね。でも本当。61歳。新田さんは?」
「35歳です」
「あ、そう。じゃあ、私たち親子ってところかしら?」
タツエが大らかに笑った。
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Posted by love40 at 08:10
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