2005年08月24日
ラブ・フォーティ 第82話 〜アイラブユー〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第81話より続く
沈みかける雰囲気をかきまぜるように、タツエが電話の向こうでおどけた声を発した。
「あら、ごめんなさい。私、大脱線しちゃったわね。気、悪くした?」
「いえ、そのとおりですから……」
「でもね、新田さんはいま変わろうとしている気がするの。新田さんはいま“自分のため”に走っている。“自分のため”に筋肉痛に堪えている。“自分のため”だから、誰にも責任を負わせることはできない。そうやって自分自身と対決する。そうやって戦いながら強い自分を手に入れる。そして、自分の家族をもう一度見つめなおす。この家族は“自分で”つくったんだっていうことを……」
「タツエさん……」
「なあに?」
「だとしたら……、主人にとって、私たちの応援というのは、本当はずっとないほうがいいんじゃないでしょうか?」
「そんなことないわ。応援は大切よ」
「でも……」
そう言ったきり晴美はしばらく考えこんでしまった。タツエは待った。
晴美の声は聞きとれないくらい弱々しいものだった。
「タツエさん。応援って、何なんでしょう?」
「応援というのは……」タツエはひとつ深呼吸した。「応援する相手に対して“あなたが思ったようにやればいいのよ”“勝っても負けても、あなたのことが好き”って思うことじゃないかしら? だから、“ガンバレ”って頑張ることを強要するのはやめて、“アイラブユー”って言ってあげたら?」
電話のこちらと向こうで同時にクスクス笑いが起こった。タツエも晴美もすごくラクになったような気がした。
タツエが声を改めた。
「ねえ、晴海さん。私のたくらみに協力していただけるかしら?」
「わかりました。やりましょう」……
新田真一が、ボンヤリとしている妻に気づいた。
「晴美、どうしたんだ?」
「ううん、何でもない」
晴美は明るい顔をつくって答えた。
新田の顔がかなり赤らんでいた。
理沙も気づいた。
「あ、新田選手、酔ってます、酔ってます。真っ赤です、真っ赤です」
「そうか?」
新田はスツールごとクルリと体を回し、後ろに降り立った。そこで膝の屈伸運動を軽く数回おこない、トイレへ行った。
女3人は新田の後ろ姿を見送りながらクスクス笑った。
「お父さんたら、最近いつでも体を動かしているよね」
「そうなの、年がら年じゅうあんなふうに……」
タツエは自分のビールを手早く飲み干してから言った。
「きっと筋肉痛だからよ。筋肉痛になると、体を動かすのを恐がってしまう人と、その反対に、痛みを何とかしたいと思ってますます体を動かす人に別れるの。新田さんは動かす人のようね。そういう人のほうが練習負けしないわね」
新田が戻ってきた。トイレで鏡を見てきたのだ。
「ほんと、真っ赤だ。久しぶりだよ、こんなに顔に出たのは。きょうはビールがすごくうまい」
「そりゃあ、新田さん、レッスン・ワン卒業の祝杯だもの。うまいに決まってるわ」言いながらタツエはあることを思い出し、カウンターの陰から1枚の紙を取りだした。「そうそう、忘れてた。はい、これ」
新田は受け取って見た。メモ用紙に地図が書いてあった。
「何ですか、これ?」
「卒業証書」
「“卒業証書”?」
「そこに書いてある場所へ行ってみてちょうだい」
「“鳥丸”……。何ですか? 行ってどうするんですか?」
「行ってからのお楽しみ」
タツエが含み笑いを浮かべた。
新田は口もとをわずかにゆがめ、タツエと晴美の顔を交互に見た。
「そう言えば、ここに初めて来たときも、こんな感じだったように記憶しているけど……。ねえ、おふたりさん」
晴美が面食らった様子で言った。
「わ……、私は知らないわよ、このことは」
「本当よ。晴美さんは何も知らない。今度は私の単独犯」
タツエが腰に手を添え、肩をそびやかして言った。
新田はたちまちあきらめ顔となって、肩をすくめた。
「はい、わかりました。もう何も申しません。とにかくここへ行ってみます」
タツエが満足げにうなずいた。
「新田さんも、タツエスクールの掟がようやく呑みこめてきたみたいね」
理沙が新田の顔を見上げ、深々とため息をついた。
「お父さん、タイヘンだね」
大人3人が同時に噴き出した。タツエは腹を押さえ体をふたつに折って笑った。新田は理沙の頭をこづく真似をした。理沙はぽかんと口を開け晴美を見上げた。晴美は、わが子の意見に目で同意するのだった。
続き(第83話)を読む
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Posted by love40 at 07:51
│Comments(4)
この記事へのコメント
おひさしぶりで〜す!
タツエさんのキャスティング、私的には「夏木マリ」さんで決定で〜す!
タツエさんのキャスティング、私的には「夏木マリ」さんで決定で〜す!
Posted by ともちゃん
at 2005年08月24日 15:20
●●●ともちゃんさんへ●●●
>タツエさんのキャスティング、私的には「夏木マリ」さんで決定で〜す!
お久しぶりです!
「夏、決マリ!」じゃなくて〜、「夏木マリ」さんですか。なるほど!
>タツエさんのキャスティング、私的には「夏木マリ」さんで決定で〜す!
お久しぶりです!
「夏、決マリ!」じゃなくて〜、「夏木マリ」さんですか。なるほど!
Posted by
オヤジライター
at 2005年08月24日 18:48
わたしのイメージでは身近にタツエさんのような方がいるんで、その方を思い浮かべてます。
その方はママさんバレーでお世話になっていたキャプテンなんです。
頼れるお姉さま、年はタツエさんより若いけど。
一見怖い感じなんだけど、根は優しくて犬が大好きな方です。
その方はママさんバレーでお世話になっていたキャプテンなんです。
頼れるお姉さま、年はタツエさんより若いけど。
一見怖い感じなんだけど、根は優しくて犬が大好きな方です。
Posted by かあちゃん
at 2005年08月24日 20:51
●●●かあちゃんさんへ●●●
>身近にタツエさんのような方がいるんで、その方を思い浮かべてます。
おおっ、そういう方が身近にいらっしゃるんですか!
>一見怖い感じなんだけど、根は優しくて犬が大好きな方です。
ほお、犬がお好きなんですか!
タツエは・・・?
>身近にタツエさんのような方がいるんで、その方を思い浮かべてます。
おおっ、そういう方が身近にいらっしゃるんですか!
>一見怖い感じなんだけど、根は優しくて犬が大好きな方です。
ほお、犬がお好きなんですか!
タツエは・・・?
Posted by
オヤジライター
at 2005年08月24日 21:11




