2005年08月28日

ラブ・フォーティ 第86話 〜ラッキー〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第85話より続く

「新田さんはたいへん幸運な方です。テニスをおやりになるのなら、タツエさんほどいい先生はいないですよ。ラッキー、ラッキー」
「私もいまはそう思っています。ところで、ちょっとお伺いしたいことがあるんですが」
「はい?」
「タツエさんという方は、どんな方なんでしょうか?」
「“どんな方”と申しますと?」
「つまり、あの方のプロフィールとでも言うんでしょうか」
「プロフィールですか……」
 丸山の表情は微笑みを保ってはいるが、それ以上口を開ける様子はなく、明らかに黙秘しているように見えた。新田にはそれが、タツエに対する丸山の気づかいのように思えた。

 新田はあわてて言葉を足した。
「あの、タツエさんのことを詮索するということではないんです。私があの人について知っていることと言えば、テニスがべらぼうにうまいこと、エリーゼという店をやっていること、61歳で独身であること……、だけなんです。それだけ知っていればじゅぶんだと言われれば、それまでのことなんですが、たとえば、タツエさんはいつごろからどんな形でテニスと関わってきたのか、とか……」
 丸山の眉がかすかに動いた。
「新田さんは、その辺のことを直接タツエさんに聞いてみたことはないんですか?」
「それとなく聞いたことはありますが、なんとなくはぐらかされてしまって……」
「なるほど」丸山は小刻みにうなずいた。「じつは私も、新田さんと同じ程度にしか彼女のことを存じません。私がそういうことに興味がないということもありますが、彼女が自分の身の上を話すということがあまりないものですから」

「丸山さんは、タツエさんとはそもそも……?」
「よく行くテニスコートで顔なじみになりました。彼女、プロ並みにうまいですから目立つんですよ。お互い飲み屋をやっている同業者ということもあって懇意になって、一緒にプレイさせてもらったり、仲間うちで飲んだり、という感じで……。もうかれこれ10年のおつきあいになります。ですが、彼女に関する知識は、おそらく新田さんと同じ程度にしか……」
「タツエさんて、快活によく喋るわりには自分のことをあまり話しませんよね」
「確かにそうですね。いつでも明るくて賑やかな方だから、いままで気にもしていませんでしたけど、おっしゃるとおりですね」
 丸山はビールびんを持ちあげた。その動きに応じ、新田は空(から)のグラスを前に差し出した。丸山はびんの口をすばやくグラスの上に定めると、なめらかにビールを注いだ。きめこまかなビールの泡立ちに見とれながら、新田はふと苦笑した。
「考えてみると、僕も無謀ですよね。用件も知らずに、ここへ、こうやって来てしまうんですから」

 新田の言葉に、丸山は苦笑しかけたが、その緩みかけた表情をさっとひき締めた。逆に目つきを鋭くし、ビールを口に運んでいる新田の額あたりを凝視した。
 新田がグラスから顔を起こすと、丸山の表情はすでにやわらいでいた。が、新田は、丸山の気配に何かを感じた。聞いた。
「あの、何か?」
「あ、いえ……」丸山はちょっとためらい、それから切り出した。「かなり前のことになりますけど……、私たちの仲間のひとりが、タツエさんからとても古い新聞の切り抜きを見せてもらったことがあるそうです。それには、子供のころのタツエさんが載っていたそうです」
「切りぬき?」
「ええ。地方紙だったらしいんですが。“天才少女、ドン・バッジと握手”という見出しだったそうです」

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この記事へのコメント
丸山さんは、登場してきた時から、マツケンサンバ振付け師、マージーこと真島茂樹さまに思えてなりません(笑)
Posted by ともちゃん at 2005年08月28日 13:27
●●●ともちゃんさんへ●●●
>丸山さんは、登場してきた時から、マツケンサンバ振付け師、マージーこと
>真島茂樹さまに思えてなりません(笑)
おっ、ともちゃんさんお得意のキャスティングですね。
なるほど〜!
Posted by オヤジライター at 2005年08月29日 11:16