2005年09月04日
ラブ・フォーティ 第93話 〜バグパイプ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第92話より続く
丸山は話しおわると、疲れた唇をウイスキーで湿らせた。目は微笑みをたたえて新田を見ていたが、「そうだ」とつぶやくなり、くるりと後ろを向いた。背後のボトル棚を見上げ、いちばん高いところから人形を取りおろした。バグパイプを吹くスコットランド兵だった。よく見ると、ただの人形ではなかった。ボトルだった。
「“ホワイト・ヘザー・バグパイパー”という酒です。行進の最前列で演奏しながら戦地におもむくバグパイパーは勇気のシンボルです。最後はこれで締めましょう。私のおごりです。道楽者の最後の道楽だと思って、つきあってください」
丸山はショットグラスをそれぞれの前に置き、ストレートでついだ。
グラスを持つと、丸山は左手を立てて「待て」の合図をした。
丸山は軽く咳払いをしてから、左手を黒いベストの小さなポケットにちょいと差し込んだ。まるで19世紀の英国紳士を気取っているかのように新田には見えた。
丸山は右手に持ったグラスをおもむろに掲げると、ふっくらとした声で詠いあげた。
「ああ、我、何ゆえにこの道に入りしか、テニスという名のいばらの道、テニスという名の恋の道、ときめいて、苦しんで、ときめいて、苦しんで、ときめいて……」
宙を見上げていた丸山の目が、カウンターの上のラケットに流れ、それから新田の目をとらえた。
「新田さん、テニスに出会えてよかったですね。……テニスの国へ、ようこそ」
丸山がウイスキーグラスを新田の目の高さに掲げた。新田がそのグラスめがけて自分のグラスを突き出した。かち合い、響き合った。グラスとグラスが奏でるファンファーレだった。
ふと新田は丸山に聞いてみたくなった。
「丸山さん、突然変なことをお尋ねしますが、事実と真実は、どう違うと思いますか?」
丸山は目を丸くして新田を見つめていたが、その間もしきりと考えているようだった。
やがて丸山が口を開いた。
「先ほどお話した新聞記事は、タツエさんにまつわる事実ですよね。では、タツエさんの真実は……?」
丸山から逆に質問される格好となった新田は、答えに窮し首をかしげた。すると、新田の困惑を思いやるように、丸山がしみじみとうなずいて言った。
「そう、僕にもわかりません。知りあって10年にもなるというのに……。事実はわかっても、真実というものは、なかなかわからないものなのかもしれませんね」
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Posted by love40 at 08:31
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