2005年09月07日
ラブ・フォーティ 第96話 〜イメージ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第95話より続く
ミニ・ラリーは、新田の無軌道な打球をタツエが根気よく修正する形で、延々と続いた。一打ごとに新田はタツエのラケットさばきに驚嘆した。驚嘆してはたちまち自分のぶざまを恥じた。恥じては驚嘆し、驚嘆しては恥じた。
恥ずかしいという気持ちが新田の表情や仕草に見え隠れした。タツエはそれが気に入らなかった。いきなりボールを止めた。
タツエの声が尖った。
「新田さん。きょう初めてボールを打つあなたがうまく行かないのは当然のことなんだから、当然のことをそう恥ずかしがらないでちょうだい。恥ずかしいなんて思うゆとりがあるなんて、まだ真剣みが足りないんじゃないの?」
言い終わるなりタツエは間髪入れずにボールを打ってきた。新田には、タツエの言葉にうなずく暇もあらがう暇もなかった。タツエが打ったボールは容赦なく迫ってくる。黄色い球体がキラリ輝き、新田の目を射した。そのとたん視神経を導火線にして、新田の脳の中で何かが炸裂した。そしてそれが一瞬にして体の隅々まで引火した。体内に爆風が吹きぬけ、新田の中に巣くっている湿った感情がカラカラに焼き払われる。殺意のようなものが全神経を鞭打った。新田の体が軽くなり、ラケットの振りが突然鋭くなった。切れのいいテイクバック。先ほどの素振りのイメージとぴたりと重なる。飛球が打撃ゾーンに突入した。と、そのとき新田の体に衝動がみなぎった。渾身の力をこめてスウィングした。完璧なインパクト。ボールはふっ飛んだ。わずか7メートルの距離を瞬時に突きぬけ、黄色い弾道がタツエに襲いかかる。タツエはとっさに体を斜め後方にしならせ、ラケットをフォアボレーに構えた。ボールをきれいにとらえた。ボールはそこで折り返し、今度は新田めがけて直進した。新田は、自分が打ったボールに逆襲される形になった。ラケットを構える余裕はなかった。身を縮こめる。ボールは新田の肩先をかすめて後方へ飛び、貯水槽の隅へ転がった。
タツエが叫んだ。
「ナイス・スウィング!」
新田が上体を起こした。汗まみれの中で顔が躍動している。いままで新田が見せたことのない精悍な目つきが、タツエの顔に食らいついた。
タツエの口もとがほころんだ。
「新田さん。いまのがテニスよ。忘れないで。いまの中に全部入っているの」
タツエは、新田が後逸したボールを回収するために、隅に向かって歩き始めた。突っ立っている新田の脇を通るとき、口の中でつぶやいた。
「テニスの快楽、テニスの恐怖、テニスの怒り……」
新田には聞こえなかった。
ラリーはさらに続いた。
新田の打球は少しづつまとまり始めていた。スウィング・フォームはひどいものだったが、とりあえずボールをラケットに当てて、タツエのところに戻せるようになりつつあった。最初7メートルだった距離も徐々に広がり、いまは空間を目いっぱいにつかって15メートルほどで打ち合っている。新田のミスで頻繁に中断はするが、それでも少しずつラリーらしくなっていった。
新田の集中力が切れ始めると、タツエは即座に休憩を入れた。休憩中はタツエの講義となった。
「実際のゲームでは、コートの端と端、つまり、それぞれのベースラインに立ってラリーの応酬をすることが多いの。その距離は24メートル前後になるから、いまのラリーの1.5倍の距離ね。しかも実際には真ん中にネットがあるわけだから、ボールをネットに引っかけずに安定したラリーを続けるだけでもかなりの技術がいるわね。
だから、どこかのテニスコートで一見何げなくラリーを続けている風景に出くわしたら、その人たちは、それだけである程度のレベルだと思って間違いないわ」
続き(第97話)を読む
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Posted by love40 at 07:59
│Comments(2)
この記事へのコメント
こんないいコーチを独り占めできる
新田さんって幸せ者!
そしてタツエさんとの縁をつくった
奥さん、エラい!
新田さんって幸せ者!
そしてタツエさんとの縁をつくった
奥さん、エラい!
Posted by hi-yo(ハイヨ)
at 2005年09月07日 18:27
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>こんないいコーチを独り占めできる新田さんって幸せ者!
ですよね!
プロ並みの環境かも。
>そしてタツエさんとの縁をつくった奥さん、エラい!
確かに!
>こんないいコーチを独り占めできる新田さんって幸せ者!
ですよね!
プロ並みの環境かも。
>そしてタツエさんとの縁をつくった奥さん、エラい!
確かに!
Posted by
オヤジライター
at 2005年09月07日 22:21




