2005年09月11日
ラブ・フォーティ 第100話 〜スポーツカー〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第99話より続く
1日に2度、新田は“お化け工場”へ行くようになった。出社前の早朝と、退社後の夕方、壁打ちをするためだった。
タツエは壁打ちを重視した。
「ラリーは、パートナーの技量によって驚くほど質が変わっちゃうの。うまい人とやれば、絶好球を返してくれるから当然打ちやすいので急に自分もうまくなったような感じがするし、その反対にヘタな人同士でやれば、ラリーそのものが続かなくて、ラケットを振っている時間よりも球拾いをしている時間のほうが長くなってしまう。ある意味で、ラリーというのは自分の力が見えにくいとも言えるわね。
その点、壁は、右にそれた打球はそのままさらに右に返球してくるし、左なら左、高ければ高く、強く打てば強く返してくる。コース取り、球速、球種……、その良し悪しは、すべてプレイヤーひとりの技量で決まってしまうわけ。おまけに壁は、ボールを後逸しないし、何時間やっても文句も言わずに相手をしてくれる。まさに壁は、厳正中立で、堅固で、従順な練習パートナーと言えるわね。だから新田さんも、壁打ちを積極的に練習メニューにとり入れてほしいの。壁がかけがえのない相棒に思えてきたら、レッスン・ツーは卒業ということかしら」
フィジカル・トレーニングとしてのランニングやスイミングに加え、テクニカル・トレーニングとして、平日は壁打ち、そして週末はタツエの特訓が、新田の日課となった。
すでに夏は終わり、9月下旬から10月へと秋が深まる中、暑さから解放された新田は運動量を飛躍的に伸ばしていった。それとともに、食事、飲酒、睡眠などの自己管理を、プロアスリートのそれを参考にしながら計画し実践した。結果、10月の1カ月間で6キロの減量に成功し、それまでの減量ペースを上回ることになった。それほどまでに新田は、自分の体と厳しくつきあうようになっていた。
7月末に“プール走”で始まった新田のトレーニングは、メニューを増やしレベルを上げながら3カ月余りがたっていた。その間に、体重は78キロから63キロへ、体脂肪率は32パーセントから15パーセントへしぼりこまれ、身長169センチの新田にとっては、まず申し分のない体に仕上がっていた。ブヨブヨとした中年男から、ひき締まったアスリートへ。まるで、積載オーバーのトラックからスポーツカーに乗りかえたような爽快感を、新田は自分の体に味わっていた。
10月から11月にかけ、秋という穏やかな季節とは裏腹に、新田の身辺ではさまざまな“変化”が起こった。それはまるで、新田の肉体の“変化”をプロローグとした、ひと連なりの“変化”のストーリーのようでもあった。
ひとつめの“変化”、それは会社で起こった。
日下部律子の言っていた食品研究部の移転独立が、突然早まったのだった。当初の予定では来年の1月だったが、それが年内に繰り上げられ、あわただしく10月初めにおこなわれた。ほとんどの社員にとって寝耳に水の出来事だった。
昨年、多喜食の研究データが大量に漏洩していたことが発覚したのを機に、人の出入りが激しい本社ビルから食品研究部を分離する計画が極秘裡に進められていた。その後スパイ事件が解決するや、予定を早めてさっそく移転ということになったのだ。この動きの早さには、春日専務の新体制づくりが急ピッチでおこなわれていることも関係していた。
食品研究部の一員である新田も、当然のことながら部とともに本社ビルを離れた。陰ではこのことを“新田の島流し”などと揶揄(やゆ)する者もいたが、新田本人にとっては“解放”以外の何ものでもなかった。安斎や泉岡、そして早川久美をはじめとした、関わりあった多くの同僚と距離をおくことができ、何ら詮索を受けずに毎日が過ごせることは、新田にとってこの上もなくありがたいことだった。
しかも、研究員はだいたいが学者肌の人間であるため、新田のプライベートにはまったく無頓着だった。ゆえに、新田のアスリートへの急変貌も、それほどうるさく取り沙汰されることもなかった。それをよいことに、新田はますますトレーニングに励むようになっていった。
結局、職場の“変化”は、新田のトレーニングに追い風をおくることになり、さらに次の“変化”に連鎖することになった。
続き(第101話)を読む
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Posted by love40 at 08:28
│Comments(4)
この記事へのコメント
心身ともに進化し続ける新田真一。
今後のラブ・フォーーーティーが楽しみ!!
今後のラブ・フォーーーティーが楽しみ!!
Posted by
ままぷりん
at 2005年09月11日 14:51
こんにちは。あっという間に第100話になりましたね。
主人公「新田」自身もそうだけど、周りの環境もめまぐるしく変化している。
というか、周りの変化に影響されて主人公が良い方向に変化し続けているように思います。
読んでいて気持ちが良いです。つづき楽しみにしています。
主人公「新田」自身もそうだけど、周りの環境もめまぐるしく変化している。
というか、周りの変化に影響されて主人公が良い方向に変化し続けているように思います。
読んでいて気持ちが良いです。つづき楽しみにしています。
Posted by
cm113605222
at 2005年09月11日 18:10
●●●ままぷりんさんへ●●●
>今後のラブ・フォーーーティーが楽しみ!!
いつも応援していただき、ありがとうございます!
新田真一、かなりタフになりましたが、まだまだこれからです。
今後を、さらにご注目ください。
>今後のラブ・フォーーーティーが楽しみ!!
いつも応援していただき、ありがとうございます!
新田真一、かなりタフになりましたが、まだまだこれからです。
今後を、さらにご注目ください。
Posted by
オヤジライター
at 2005年09月12日 07:57
●●●cm113605222さんへ●●●
>あっという間に第100話になりましたね。
はい。すでに3カ月を超えての連載になりますが、実感としては「あっという間」でした。
読んでくださる方がそばにいて、いっしょに走っているような、そんな感じで、とても心強いです。
これからもよろしくお願いします!
>周りの変化に影響されて主人公が良い方向に変化し続けているように思います。
そう、“周り”の中で、“周り”とともに、人は生きてる……
>読んでいて気持ちが良いです。つづき楽しみにしています。
ありがとうございます!
>あっという間に第100話になりましたね。
はい。すでに3カ月を超えての連載になりますが、実感としては「あっという間」でした。
読んでくださる方がそばにいて、いっしょに走っているような、そんな感じで、とても心強いです。
これからもよろしくお願いします!
>周りの変化に影響されて主人公が良い方向に変化し続けているように思います。
そう、“周り”の中で、“周り”とともに、人は生きてる……
>読んでいて気持ちが良いです。つづき楽しみにしています。
ありがとうございます!
Posted by
オヤジライター
at 2005年09月12日 08:07




