2005年09月14日
ラブ・フォーティ 第103話 〜スタンド〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第102話より続く
その日の夕方、新田が会社から帰ると、晴美が言った。
「壁打ち、行こうよ」
「突然何を言い出すんだよ」新田はあきれた顔をして窓の外を指さした。「もう日が暮れてボールが見えないんだよ。きょうに始まったことじゃないだろ。もう夕方の壁打ちは無理だよ」
晴美が含み笑いを浮かべ、それから言った。
「私にいい考えがあるの。早く準備して」
「何だよ?」
「いいから早くして」
「しかし、もうすぐ理沙が帰ってくるんじゃないのか?」
「理沙には言ってある。“塾から戻ってきたら、しばらく留守番していて”って。だから早く準備してちょうだい」
「しかし……」
「さあ、行くわよ!」
晴美の強引さに新田は負けた。
新田がマンションの自転車置場へ行くと、晴美がロープの束を荷台に積んで待っていた。
「何だよ、それ?」
「いいから、早く行きましょう」
言うなり晴美は自転車を発進させた。
新田はふくれっ面を風に当てて晴美を追いかけた。
薄闇の中の“お化け工場”は格段と気味が悪かった。秋の虫の音(ね)がわびしさをいっそう深め、新田夫妻は寄りそうようにして中庭を進んだ。
貯水槽の縁まで来て新田は驚いた。別の場所に捨ててあったはずの自転車が、そこに立てかけてあった。
晴美が言った。
「この自転車を下に降ろすの」
「何のため?」
「いいから早くして」
「はいはい。わかりました」
新田はロープを自転車にくくると、そろりそろりと降ろした。平行して晴美が鉄梯子を一段一段降りていった。
底に着くと、晴美は自転車を手押して移動させ、ある位置でスタンドをかけた。
新田はあっけにとられて見ていた。
晴美は悠然と、スタンドをかけたままの自転車にまたがった。それから顔を斜め上に振り上げ「いつまでそこにいるの。早く降りてらっしゃいよ」と夫に向かって声を投げつけた。新田はしぶしぶ降りていった。
晴美は顔を前に戻すと、いきなり腰をあげ全体重をかけてペダルをこぎはじめた。スタンドに支えられて宙に浮いている後輪が、きしみながら回転しはじめた。
ボ、ボ、ボワッと自転車の夜行灯が光を放った。薄闇の中で前方の壁が輝いた。白くくっきりと新田の練習場が照らし出された。
晴美が弾んだ声で叫んだ。
「どう? これで壁打ちできる?」
「“できる?”って、まさか……」
「そう、その“まさか”よ」
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Posted by love40 at 07:47
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