2005年09月16日

ラブ・フォーティ 第105話 〜タイプ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第104話より続く

 練習時間がふたたび増した。
 1日に1度はラケットを握れとタツエに言われていたが、新田は早朝と夕方、12時間に1度握った。手の平は足の裏のように強固になり、上達は加速した。

 12月になると、新田は貯水槽の地底から地上へと這い出た。いよいよ“コート・デビュー”だった。
 タツエはいろいろ考えたすえに、できる限りあちこちのテニスコートで新田にプレイさせることにした。そうすることによって、さまざまな種類のコート――クレイコート、ハードコート、オムニ(砂入り人工芝)コートなどの違いを学ぶことができ、しかも、さまざまなタイプのプレイヤーと出会うこともできる、と考えた。いまはとにかく場数(ばかず)をたくさん踏むことが大切だ、と。

 週末はほとんど終日、タツエは新田を引きつれ、次々とテニスコートを渡り歩いた。新田はそこで、タツエの凄さをあらためて知った。驚いたことに、タツエはコートの予約をめったにしなかった。突然行ってテニスコートを見渡し、自分の知り合いを見つけて「いいかしら?」と言うだけだった。どこでもタツエは歓迎された。そんな、タツエのファンとも呼べるような人たちが、行く先々にいるのだった。

 新田が晴美とスクールを探しに行ったときのテニス場も、タツエの“シマ”だった。晴美を勧誘しようとした青年インストラクターも、タツエには一目置いていた。2軒目に見学したテニス場の初老マネージャーにいたっては、まるでタツエを崇拝しているかのような応対だった。マネージャーは新田のことはまったく覚えていなかった。覚えていないのも無理はなかった。あのころの新田は78キロの白い脂肪の塊だったが、いまは63キロの褐色の筋肉だった。

 週末はまさに武者修行だった。
 シングルス戦、ダブルス戦を問わず、片っ端から新田はコートに立たされた。対戦相手は、男、女、老人、中年、若者、体育会系現役、ママさんチーム……、ラケットを握る者にはことごとく挑戦した。
 その日も、タツエはフェンス越しにコート上のメンバーを物色していた。そしてあるグループを見つけると、クスッと笑い、脇に立つ新田に言うでもなく独り言のようにつぶやいた。
「ああいうテニスも知っておいたほうがいいわね」
 新田はタツエの視線をたどった。すると、ひときわ賑やかなグループがコートにいた。オバちゃん4人組が大小の笑い声をちりばめながらボールと戯れている。年齢は5〜60代といったところだろうか。タツエと同年代もしくは少し上なのだろう。

 タツエの出現に、リーダー格とおぼしきオバちゃんが手を振りながら声高に言った。
「あれま、それが噂の新しいボーイフレンドかい?」
 タツエが大らかに笑った。
「あっはっは。もう噂になってるかい? ちょいと仕込もうと思ってね。混ぜてもらっていい?」
「構わないよ。だけど、いまから入ってもコート料は頭割りだよ」
「そうしてちょうだい」
「そうかい」リーダー格は仲間を見回し、“声高に”ささやいた。「きょうはちょっとトクしたね」
 オバちゃんたちはいっせいにゲラゲラと笑った。

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