2005年09月17日

ラブ・フォーティ 第106話 〜ベテラン〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第105話より続く

 オバちゃんたちのプレイがひと段落したところで互いを紹介し、新田はさっそくダブルスゲームに参加した。
 オバちゃんたちのテニスはそれぞれに自己流で、お世辞にもスマートなプレイとは言えなかったが、20年、30年と続けてきたベテランらしい、ねちっこさがあった。おまけに、勝っても負けても笑いが絶えない彼女たちのプレイは、そのかしましさが、ある種のふてぶてしさにも感じとれた。タツエは楽しげに言うのだった。「あの人たちはラケットを振ってボールを追いかけていること自体が楽しいのね。勝ち負けはほとんど問題じゃないのよ。だから、ある意味で彼女たちに負けというものはないの。敗北感とは無縁。私とはまったく違う世界だけど、あれもテニスね」と。
 オバちゃんたちの小器用なラケットさばきにあしらわれ、笑い声に呑み込まれ、新田はコートの上で翻弄された。まるで古ダヌキにからかわれているかのようだった。

 数ゲームのあと、抜け番となった新田がベンチに腰をおろすと、もうひとつのベンチで休んでいたオバちゃんがいそいそと隣席に移動してきた。4人の中でいちばん人懐っこそうなそのオバちゃんは、運動するにはいささか不似合いな厚化粧をほどこし、その粉っぽい顔にふんだんに笑みを浮かべて新田に話しかけてきた。
「新田さんはテニスを始めてどのくらいになるの?」
「まだ3カ月です」
 新田の答えに、オバちゃんは紅色の唇をタラーンと縦に開けて驚いて見せた。
「まああ。たったの3カ月であれだけの腕前に……。さすがタツエさんが教えてるだけあるわねえ」
「そうですね。タツエさんに教わることができて幸運でした」
「タツエさん、厳しいんでしょ?」
 新田は苦笑しながら冗談っぽく答えた。
「鬼ですね」
「“鬼”?」オバちゃんはコート上のタツエにちらと目をやって笑った。「あはは、まったくそのとおりね。きょうはあたしたちに合わせてプレイしているけど、本気でやるときは、あの人、本当にテニスの鬼だものね」
 ふたりは顔を見合わせて、含み笑いをためて互いにうなずいた。

 新田がコートに目を戻そうとすると、オバちゃんの声がすがってきた。
「やっぱり……、新田さんにそれなりの才能があったから、タツエさんに教えてもらえるようになったんでしょうねえ」
「いえ、才能うんぬんの問題ではないと思いますよ。もしそういうことなら、40歳の中年男に教えるより、もっと才能があって将来性のある若い人に教えたほうがいいわけですし……」
「そうか……。そりゃそうだわよねえ」
 オバちゃんはさも感心したように神妙な顔つきでうなずいた。オバちゃんは自分が失礼な受け答えをしていることにまったく気づいていなかった。
 新田はこっそり苦笑した。

続き(第107話)を読む


人気blogランキングに参加中♪