2005年09月23日
ラブ・フォーティ 第112話 〜スキンヘッド〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第111話より続く
会社の忘年会の夜も、新田はコートにいた。
テニサーのひとり、「チンネン」と呼ばれている男にナイト・テニスを誘われたのだった。
チンネンは地元の寺の跡取りで、20代後半の若い坊主だった。彼の本当の名前を、テニサーたちのほとんどが覚えていなかった。いつのまにか「チンネン」にされていたのだ、と本人は不服そうに言う。学生時代は仏教学科に籍を置くかたわら、仲間とテニス・サークルをつくって遊びまわり、軽井沢あたりでずいぶん女の子をあさっていたらしい。
「学生のころから親父の手伝いをしていたもんですから、すでに頭を丸めていたんですよ。坊主だと言うと敬遠されてしまいますから、スキンヘッドのテニサーってことにして女の子を口説くわけです。派手めなテニス・ウェアに坊主頭はコートで目立ちましたし、テニスの腕もまずまずでしたから、けっこうモテたんですよ。実際のところ、あのころは、神も仏も畏れぬワル坊主でしたよ」
言ってチンネンは、自分の坊主頭をぴしゃりと叩いて笑うのだった。
チンネンは仕事柄、前もって予定を組むことができなかった。いつも仏(ほとけ)次第なのである。したがってテニスをする時間が取れそうになると、突然誰かに声をかけることになる。新田を誘ったのも前日のことだった。「あしたの夜、テニスをしませんか」とチンネンから誘われたとき、新田は内心ほっとした。これで、気乗りのしない会社の忘年会を、何としてでも欠席する決心がついた、と。
そしてきょう、新田とチンネンは、厳冬下のナイト・テニスに興じたのである。
プレイのあと、ふたりはタツエの店へ行った。タツエは、ナイト・テニス帰りの猛者を讃えつつ迎えいれてくれた。
エリーゼは毎度のことながら客がごった返していた。
新田とチンネンはボックスシートで、他の客と相席して飲んだ。
チンネンの若き日の武勇伝は、とどまるところを知らなかった。新田は笑いころげながら聞いた。チンネンによると、テニスのうまい女の子と寝るのは愚かなことらしい。テニスのうまい女(こ)は、コートの上の友として一生つきあうべきだと言う。反対に、テニスのヘタな女(こ)とは、さっさとベッドの上にあがって甘美なひとときを楽しむべきらしい。
「ねえ、新田さん。軽井沢における、テニスのうまい女(こ)とヘタな女(こ)の比率って、どのくらいだと思います? ざっと1対100ですよ。それほど貴重な“1”まで、うたかたの恋にして終わらせるヤツは馬鹿というものです」
「その“1”を、生涯の伴侶にするって考えは、チンネンさんにはないの?」
「それは御免こうむりたいところです。女房はテニスをしない女がいいですよ」
「どうして?」
「だって、ベッドの上と、コートの上の、ふたつも十字架を背負って生きていけますか?」
「なるほど……。確かにそれは難儀だ。しかし、チンネンさん、あなたが十字架を背負っちゃまずいんじゃないの?」
チンネンははっとして自分の頭を叩いた。
「いやあ、たしかに。愚僧の失言でござりまする」
言いながらチンネンは合掌した。
新田は笑った。笑うと、気持ちよく酔いがまわった。
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Posted by love40 at 07:54
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