2005年09月25日

ラブ・フォーティ 第114話 〜ミステリアス〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第113話より続く

 新田とチンネンは、ボックスに空席ができたぶん、ゆとりをもって座り直した。
 ゆったりとして、やや改まった気分になってチンネンが口を開いた。
「ところで新田さんは、シングルスとダブルスでは、どちらのプレイのほうがお好きですか?」

 新田はちょっと考えてから答えた。
「さあ……。始めてまだ数ヶ月ですから何とも言えませんね。ただ、ダブルスだと、私のような初心者はパートナーの足を引っぱってしまうことがあるので、そういうことで心苦しいときがありますね」
「なるほど。そのお気持ち、非常によくわかります。昔、高校のテニス部時代に、先輩とダブルスを組んでいたんですが、僕がとんでもないミスをして大事な試合を落としてしまったことがあるんですよ。あのときだけは死んでお詫びをしようかと思いましたよ。ひっそりとした寺の本堂で、高校生が死ぬの生きるの悩んでいる姿はシャレにならなかったですよ」
 チンネンは情けなさそうに思い出し笑いをした。

 新田は、その本堂の情景がありありと目に浮かんでしまい、こらえきれずに噴きだしてしまった。
 チンネンは、自分をなだめるように冷たいビールをいっきに飲み干すと、潤った喉でまた話し始めた。
「ところで、テニスというスポーツで、僕がおもしろいと思っていることのひとつが、その、シングルスとダブルスの存在なんです。1対1で戦うか、2対2で戦うか……。人数がひとり増えるか減るかだけの話なんですが、そのことで、ゲームの性格ががらっと変わってしまうわけです」
「人数が違えば、それは当然、ゲームの性格も変わるでしょうね」
 新田は、チンネンの話に相槌を打つようなつもりで、さほど考えもせずにそう答えた。

 するとチンネンがニヤッと笑った。
「どうも僕の言い方に、足りないところがあったようです。新田さんは勘違いされているようです」
「と言いますと?」
「ある意味では、人数の違いは、そう大したことではないんです」
 言いながら、チンネンは相変わらず意味ありげに笑みを漂わせている。
 新田は首をかしげた。
「と言いますと?」

「野球を例にすると、野球は1チーム9人で戦いますが、それがひとり増えて1チーム10人になろうと、ひとり減って1チーム8人になろうと、ゲームの本質はそう変わるものではありません。同じように、バレーボールが1チーム6人のところを、5人にしようが7人にしようが、バレーボールの本質はそう変わるものではありません。バスケットボールやサッカーも同様で、これらのスポーツでチーム人数が変わったからと言って、天と地がひっくり返るほどゲームの性格が変わってしまうかといえば、そういうことはないと僕は思っているんです。
 そういう意味で“人数の違いは、そう大したことではない”と言いたかったんです。

 問題は、シングルスとダブルス――“ひとり”と“ふたり”というところにあります。この人数の違いには、明らかに本質的な違いがあるのではないでしょうか。つまり“個人競技”と“団体競技”の違いです。ひとりであれば個人競技ですし、ふたりであればこれはもう立派な団体競技です。この違いは大きいです。
 ゲームの戦術うんぬん以前に、思想がまったく違います。簡単に言えば、チームワークの精神の有無です。シングルスにはチームワークの精神は不要ですが、ダブルスには不可欠です。これはプレイヤーにとって、本質的な違いを意味しますよね」

「なるほど。すると、シングルスとダブルスとでは、まったく種類の違うゲームと考えたほうがいいのですか?」
「僕はそう考えることにしています。“テニス”という同じ名前の、しかも、ほとんど同じテクニックを使った、まったく違うゲーム。……どうです? ちょっとミステリアスな感じさえしてきませんか? そういう気持ちで、他人(ひと)のゲームやプロのゲームを見るだけでも、いろいろ発見があるもんですよ」
 チンネンの口もとには、相変わらず意味ありげな笑みが揺らめいていた。

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