2005年09月26日

ラブ・フォーティ 第115話 〜マッケンロー〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第114話より続く

 エリーゼの店内はそこかしこで盛りあがっていたが、それらとは隔絶して、ふたりの間にはほのかな緊張感があった。新田は何とも言えない心地よさを味わっていた。
 新田が聞いた。
「プロのテニスプレイヤーは、シングルスとダブルスの違いを、どのように考えているんでしょうか?」

「人それぞれだと思います。シングルス、ダブルス、両方とも好きと言う人がいれば、片方だけ好きと言う人もいるでしょう。あるいは、両方ともに秀でている人、片方に秀でている人。場合によっては、本人はシングルスが好きなんだけど、ダブルスのほうがいいプレイをする、なんていうこともあります。
 基本的にプロの場合は、どうしてもシングルス戦のほうが賞金や注目度が高いですから、まずはそっちで頑張ろうと考えるはずです。しかしその一方で、“ダブルスのスペシャリスト”と言われることを誇りにしている選手もいます。本当にいろいろなタイプの選手がいます。

 たとえば、ジョン・マッケンローは、シングルスとダブルスの両方を愛し、両方で戦い、両方で勝ちまくりました。生涯優勝回数は、シングルス77回、ダブルスも77回と、まったく同じです。それとは対照的に、ビヨン・ボルグの生涯優勝回数はシングルスのみ62回と、彼はシングルスに専念したわけです。
 ま、僕の個人的な感想ですけど、マッケンローほどテニスを純粋に――子供のように愛したプレイヤーは、ほかにいないんじゃないでしょうか。彼は試合中にわめいたり怒鳴ったりすることで有名でしたけど、それは愛情の裏返しのような気がするんです。彼はテニスのすべてを愛しているんだと思います。テニスに関係するものはすべて――シングルス戦も、ダブルス戦も、大きな大会も、小さな大会も、ライバルも、観客も、審判も……。その全部を熱愛し、だからこそ、その全部に向かって、子供のような純粋さを傾け、ガキのように怒りをぶちまけたり喜びを表わしたりしていたのではないでしょうか。
 そのマッケンローを応援していたのも、僕が小学生のころですから、ずいぶん昔の話になってしまったものです」
 チンネンは寂しげにほほえんだ。

 新田は、目の前にいる20代後半の僧侶が、自分よりもはるかに先輩のように感じられた。いままで新田が年下の人間と接してきて、そんな思いになったことなど一度もなかった。それだけに、とても新鮮な思いだった。テニスという未知の世界に足を踏み入れ、そこで自分がまるで“年下”のように振る舞うことになったのだ。自分が未熟に見られることは恥ずかしいことではあるけれども、それこそが若さの感触ではないか、と新田は思った。こんな体験は、会社ではしたことがなかった。会社では、偉くなるかそれとも歳をとるか、そのどちらかしか選ばせてもらえなかったことに、新田はようやく気がついた。何か胸にこみ上げてくるものがあった。それを払いのけるように、新田はとっさに思いついたことを言葉にした。

「ところでチンネンさんは、シングルスとダブルスとでは、どちらが好きなんですか?」
「あちゃ!」チンネンはすっとんきょうな声を上げながら坊主頭を掻いた。「いろいろ生意気なことを申し上げたわりには情けない話ですが、愚僧の場合、女人とプレイできれば、それはもうシングルス戦でもダブルス戦でも、喜び勇んでコートに馳せ参ずる次第でして。若気の至りと申しますか……。いやはや面目ない」
 あっというまに、いつものおどけたチンネンに戻っていた。
 新田は笑った。
 笑って酔った。

続き(第116話)を読む

人気blogランキングに参加中♪   

この記事へのコメント
移転されたのですね。
実は私もサイドバーの規制が多く
自由にできないので(最近急に
ペットもメロメロパークしか
使えない。)またサイドバーに
載せたいものも規制が多く
あ〜livedoorにすればよかった
変えようかな?と思いつつ
一つ一つ どう写して行くか
考えるとためらってます。
また色々な情報教えてくださいね
Posted by 紫音麻衣 at 2005年09月26日 11:02
●●●紫音麻衣さんへ●●●
ブログの移転って、家の引っ越しと同じくらい大変ですよね。
僕もいろいろ考えたすえに、「エイヤッ」って感じでやりました。
>また色々な情報教えてくださいね
僕で教えられることがありましたら、喜んで。
紫音麻衣さん、頑張ってくださいね!
Posted by オヤジライター at 2005年09月26日 12:03