2005年09月29日
ラブ・フォーティ 第118話 〜メタルフレーム〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第117話より続く
新田が勤務している多喜食では、1月初めより春日新社長を頭(かしら)に頂き、新体制づくりを着々と進めていた。食品研究部だけは昨年中に移転独立し、ひと足先に騒動を終え、いまはすでに落ちついた日々を送っていた。
1月も終わろうとするある日、営業2課の“情報マニア”藤永が突然新田を訪ねてきた。近くまで営業で来たのでついでに寄ったとのことだった。他人の家に上がる訪問客のように、藤永は生来の猫背をさらに丸めて入ってきた。
本社ビルの人間が研究所に来ることは珍しい。双方の打ち合わせがあるときは、通常は研究所の人間が本社ビルに出向くことになっている。研究事項の機密保持のため、研究所の出入りを極力抑えるよう指導されていた。
応接室のソファーに新田は四肢を伸ばしゆったりと座った。反対に、藤永はいつものように身構えるように体を縮こませ、ソファーの端に腰かけた。
藤永は、新田の変貌ぶりにまず驚いた。
「しばらくお会いしないうちに……。別人かと思いましたよ。痩せましたねえ」
「ああ」
「何キロくらい痩せたんですか?」
「10キロくらいかな」
「そうですか? 見たところ、もうちょっと減っているように見えますけど、陽に焼けたせいですかね。何か始められたんですか?」
藤永の観察グセは相変わらずのようだ、と新田は内心苦笑した。
「医者から、健康のためにジョギングを勧められてね。日曜ジョガーってやつだ」
そう言う新田を、藤永はいぶかしげに眺めていた。ややあって、重そうに口を開いた。
「そうですか? なんかもっと激しいことをしてそうな雰囲気なんですけど……。新田さん、目つき、変わりましたね」
「そうかい? どんなふうに?」
「サラリーマンの目つきじゃないですよ」
「“サラリーマンの目つき”? そんなのがあるのか?」
「ありますね。うまく言えませんが、あるんです」
「ふーん……」新田は話題を変えたかった。「ところで藤永君、仕事のほうは最近どうなんだい?」
「仕事ですか? 相変わらずたんたんとやってますよ」
精緻なデザインをあしらったメタルフレームの眼鏡の奥で、細く鋭い目がほんのわずかやわらいだ。
新田が聞いた。
「こっちには初めて来たんだよな」
「ええ。静かでいいですね。本社ビルに比べると、ここは別荘ですね」
「“別荘”ね。刑務所って意味かい?」
新田の軽口に笑うこともなく、今度は藤永のほうが聞いた。
「どうですか、ここの居心地は?」
「なかなか気に入っているよ」
「そうですか。じゃあ、本社に戻る気なんてないですよね」
「“戻る気”? そんな話でも出ているのかい?」
「あ、いえ……、あの……、早川久美の件はご存じですよね」
「辞めたってことだろ?」
「ええ。正確には“辞めた”ではなく“辞めさせられた”ですけどね」
「ああ……、そうだったな」
新田は複雑な気持ちで相槌を打った。
早川久美は、表向きには依願退職ということになってはいるが、じつはクビだった。原因は、彼女が営業部の機密データを外部に流し、それが発覚してのことだった。会社側は、早川にそれ相当の処罰をしたいところだったが、トラブルメーカーの彼女とはいっさいもめたくないとの配慮から、穏便な退職処置ですませたのだった。社内では公然の秘密となっていた。
本来なら新田は、自分にとって忌まわしい人物が消えうせたのだから、いくばくかでも気が晴れるべきところなのだろうが、そうはならなかった。ただむなしいばかりだった。
藤永は、新田の表情を読みとったのか、いつもよりさらに控え目な声で「あいつの話は不愉快かもしれませんが、じつは……」と口火を切った。その話は、“早川解雇”の裏側を探り出したものだった。
続き(第119話)を読む
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Posted by love40 at 08:07
│Comments(2)
この記事へのコメント
「じつは…」
わわわっ!次回が楽しみです!
わわわっ!次回が楽しみです!
Posted by hi-yo(ハイヨ)
at 2005年09月29日 15:43
●●●hi-yo(ハイヨ)さんへ●●●
>わわわっ!次回が楽しみです!
どうなることやら!
もうすぐです!
>わわわっ!次回が楽しみです!
どうなることやら!
もうすぐです!
Posted by
オヤジライター
at 2005年09月29日 17:31




