2005年09月30日

ラブ・フォーティ 第119話 〜ニューヨーク〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第118話より続く

 早川が機密データを流した相手というのは、多喜食に出入りしていた人間で、ふたりはつまり男と女の関係だった。情にほだされてか営利かはもうひとつはっきりしないところだが、とにかく早川はその男のためにデータを盗んだ。それがバレた。「ここまでは社内でも噂になっているんですが、じつはこの話にはさらに裏があったんですよ」という藤永の言葉に、新田は耳をそばだてた。

 藤永の声が低くなった。
「どうも、この一件は仕組まれたようなんです。その外部の男というのがその後どうしたかというと、会社を辞めてアメリカに渡っているんです。そして現在、多喜食がバブル時代に所有していたニューヨークのマンションに住んでいるんです」
「セントラルパークのそばの?」
「そうです」
「あそこは売却したんだろ?」
「確かに売却しています。売却先は不明ですが……」
「どうしてそのマンションにいることがわかったんだ?」
「その男の元同僚が、彼から郵送物を受け取っていたんです。差出人の住所が、そのニューヨークのマンションになっていたんですよ」
 よく調べたな」

 新田の感心した顔を見て、藤永はニヤッとした。
「どうですか、新田さん。これは単なる偶然でしょうか?」
「さあ、僕には何とも言えないよ」
「じゃあ、もうひとつ新事実をお教えしましょう」藤永は上半身を応接テーブルの上に突き出し、さらに声をひそめた。「新田さんの同期だった総務部の田丸さんという人。その方、10年ほど前に社内の不倫関係がもとで辞めましたけど、そのときの相手だった女性も、その騒動のあとにニューヨークの同じマンションでしばらく暮らしていたらしいんです。なんかヘンじゃありませんか? ふたりの多喜食社員が、同じように男女のもつれが原因で会社を辞めることになって、しかもその相手が、多喜食が所有していたニューヨークのマンションに一時期ステイしていた……。これは偶然でしょうか?」

 新田の背筋にチリチリと鳥肌が立った。思わず応接室を見まわした。体を前に押し出し藤永の耳もとにささやいた。
「藤永君。それをさらに調べるつもりかい?」
 藤永は眉根をきつく寄せ、今度は自分の口を新田の耳もとへ運んだ。
「いえ。正直言ってちょっと気味が悪くなってきているんです。このことはもう封じようかと……。その前に、新田さんにだけはお知らせしようと思って……」
「芳賀さんには話したのかい?」
「いえ、まだ何も」
「なぜ僕にだけ話したんだい?」
「それなんですが、じつはいま本社の中で妙な動きがあるんです」
「“妙な動き”?」
「ええ。ひとことで言えば、新田さんを本社に戻そうという動きです」
「僕を?」

「はい。つまり、早川久美の背任行為がほとんど周知の事実となってしまったいま、彼女のつまらぬ訴えの犠牲になった新田さんの処遇を、このままにしておいてもいいのだろうか、という意見が浮上しているんですよ。だからさっき新田さんに、食研の居心地はどうですかと聞いたんです。もしかりに、昨年の異動を修正する形で、再異動案が本格的に討議されるようになるとしたら、新田さんはどう思われますか?」
「“どう思われますか”と聞かれても困るよ。僕個人が“いい”とか“悪い”とか言うようなことではないだろ? それが会社の方針だったら従うしかないんじゃないか?」
 新田と藤永は顔をつき合わせたまま微動だにしなかった。
 藤永は考えをまとめるために口をつぐんだ。
 沈黙がさした。

続き(第120話)を読む

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この記事へのコメント
初めまして。眼鏡と申します。
今日初めてブログを拝見させていただいたのですが、
連載小説のラブ・フォーティの第1話から第119話まで、
一度に読んでしまいました。
とても読みやすく、面白かったです。
お気に入りに登録して、続きを楽しみにまっていますね。
Posted by 眼鏡 at 2005年09月30日 19:49
●●●眼鏡さんへ●●●
>第1話から第119話まで、一度に読んでしまいました。
どひゃー! ありがとうございます!
>とても読みやすく、面白かったです。
そう言っていただけると、とても嬉しいです!
>お気に入りに登録して、続きを楽しみにまっていますね。
眼鏡さん、これからも応援よろしくお願いします!
Posted by オヤジライター at 2005年09月30日 22:10