2005年10月02日

ラブ・フォーティ 第121話 〜キャンペーン〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第120話より続く

 藤永は腕を組み、猫背をさらに丸めて話を続けた。
「半年ほど前、市ヶ谷で新田さんと偶然お会いしたときも、僕は安斎さんのことを話しました。そしてきょうもこんな話をしています。
 僕が何を言いたいのか、もうおわかりだと思うんですが、総務の田丸さんの件も、早川の件も、安斎さんが深く関わっているように思えてならないんですよ。
 そう思えば思うほど、今度の“新田さんカムバックキャンペーン”を額面通り素直に受け入れることができないんです。何か、きな臭いんです。安斎次長の真意はいったい何でしょうか?」

「さあ、さっぱりわからんよ」
 新田は嘘をついた。なんとなくだが見当はついた。それを確かめるために藤永に質問した。
「ところで、その“カムバック・キャンペーン”とやらは、いつごろから始まったんだい?」
「僕が調べたところでは、去年の12月半ばには始まっていましたね」
「ふーん」
「何か?」
「いや、とくに……」

 そう言いながら新田は内心やっぱりと思った。思ったとたん全身に怖気(おぞけ)が走った。12月半ばという時期は、どう考えても妙だ。たとえ12月末に退職が決定しているとはいえ、早川久美がまだ在社している間に“カムバック・キャンペーン”をぶち上げるだろうか。普通なら、追放される者が追放されたあと、年を改め、春日新社長のもとに万全の態勢で事に当たるのではないだろうか。それなのに、なぜか安斎は12月半ばに動き始めた。何かきっかけがあったはずだ。それは何?

 新田の頭の中に、12月初めに起こったある出来事がよみがえっていた。1本の電話。安斎からの電話だった。新田に忘年会の司会を依頼してきた。新田は断った。あのとき安斎は自分の誤算を知ったにちがいない。出世競争でつぶれたはずの男が、“流刑の地”食品研究所で息を吹き返し、あろうことか出世頭である安斎に楯突いた。謀反を起こしたのだ。おそらく安斎は逆上したのだ。このまま新田真一を、本社から離れた食研に置いておくわけにはいかない、と思ったに違いない。一日も早く営業部に戻し、営業部次長となる自分の下で、主従関係をもう一度わからせる必要がある、と。そして安斎は動いた……。
 新田はため息をついた。白い息がむなしくこぼれた。その息を北風が吹きちらした。

 新田が言った。
「藤永君に、頼みがあるんだが」
「何でしょうか?」
「ニューヨークのマンションの件なんだが、売却先をなんとか調べてもらえないだろうか?」
 藤永の目が光った。
「それを知ってどうするんです?」
 新田は口の端にかすかな笑みをそよがせた。
「ただ知りたいだけだよ」
 藤永の目が笑った。
「“ただ知りたいだけ”……。わかりました。やってみます」

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