2005年10月03日
ラブ・フォーティ 第122話 〜スラム〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第121話より続く
マルーセ・リホスはベスト8まで勝ち進んだが、そこで惜しくも敗退した。
そして全豪オープンが決着し、テニスの正月は終わった。
2月に入ってまもなくのことだった。
主任研究員・日下部(くさかべ)律子が、受付カウンターに顔を向けて声を上げた。
「あら、最近は珍客が多いわね」
「おう、律ちゃん、俺に会えて嬉しいかい?」
新田が振りかえると、営業2課課長・芳賀修が紙袋いっぱいの焼きいもを抱えて立っていた。
芳賀は焼きいもを高らかに掲げて吠えた。
「みやげだ!」
芳賀の野太い声に、静寂の研究所が揺れた。そこここに散っている研究員たちはクスクス笑っている。
日下部が苦笑まじりに芳賀をたしなめた。
「修(シュウ)さん、みんなを恐がらせないでよ。ここには穏やかな動物しかいないんだから」
「おいおい、俺は猛獣か?」
「じゃなければ、いったい何なの?」
日下部と芳賀のやりとりに室内は爆笑となった。
若い女性所員が焼きいもをうやうやしく受けとり、そこで芳賀にひとしきりからかわれた。ほかの所員たちはしばらく手を休め、入り口付近の騒動を楽しげに見物している。
日下部が芳賀に歩み寄り、それを機に若い所員が焼きいもを抱えて逃げていった。
「本日のご用向きは?」
「新田の顔を見に来たんだよ」
「あら、私の顔を見に来たんじゃないの?」
「律ちゃんはときどき本社に来るじゃないか。新田には、こっちに移って以来一度も会ってないんだぜ」
「新田ちゃんは最近人気者ね」
日下部の視線に、新田は照れた。
芳賀が室内を見まわして言った。
「藤永から聞いてはいたけど、こりゃあいいや。働く環境てのはこういうのを言うんだよ。これに比べれば本社はスラム街だね。俺もこっちに移るかな」
日下部が噴きだした。
「修さんが来たら、こっちも同じになっちゃうじゃないの。やめてよ」
「それ、どういう意味だよ?」
ふたたび室内は爆笑に満ちた。
芳賀が新田に近づいた。
「いいデスクじゃないか。しかし、新田、おまえ……」言いかけてやめ、あたりを見まわした。「応接室はないのか? 俺がここで騒いでると、みんな仕事にならんだろう」
新田と芳賀は応接室に入った。
ソファーに腰をかけるなり、芳賀が堰を切ったように言った。
「藤永から聞いてはいたけど、新田、おまえ本当に変わったなあ。痩せたよ。まさに変身だよ。休みの日はジョギングしてんだって?」
「ええ、まあ」
「そうか。どのくらい走ってんだ?」
「え? ええと、1時間くらいですか」
「休みの日? ということは週2回ぐらい?」
「え、ええ……」
「ふーん」芳賀は、釈然としない表情を新田に向けた。「それ、本当か?」
「え? はい……」
「そうか」
芳賀は口の端を下げてうなずいた。
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Posted by love40 at 07:59
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