2005年10月05日
ラブ・フォーティ 第124話 〜ノック〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第123話より続く
ラブ・フォーティ 第124話
新田も芳賀を正視した。
「社長のお心づかいを知って、たいへん嬉しく思っています。いろんなことがありましたけど、いまに至って報われたような気がしました。多喜食の一員である誇りを、これからも守っていけそうです。その誇りをもって、この第二の職場を、僕なりに全うするつもりです。……そう社長にお伝えいただけないでしょうか」
新田は頭を下げた。
芳賀は目を伏せ小さくうなずいた。
「そうか」
芳賀はため息を深くつくと、のけぞるようにソファーの背に体を投げ出した。それから両腕を翼のように伸ばしてソファーの肩に引っかけた。天井を見上げ、またひとつため息をついた。
部屋の空気が凪(な)いだ、と思った瞬間、芳賀が声を張り上げた。
「く、さ、か、べえ!」
芳賀の野太い声は天井に跳ね上がり、さらに防音を施したドアをつらぬき外へ漏れ出した。
新田はその声に気圧され、呆然として芳賀を見た。
ドアはノックされると同時に開いた。日下部律子の白衣の白さがドア口を埋めた。つりあがった目が室内を覗き込んだ。尖った声が芳賀をとがめた。
「修さん! ここは動物園じゃないのよ!」
芳賀はソファーから体をゆっくり起こすと、ニヤッと笑った。
「律ちゃん、そう怒るなよ」
日下部はドア口で芳賀をにらんでいた。
新田の視線は、ふたりの間をおろおろとさまよっていた。
芳賀は顔を日下部に向けたまま、指を新田に向けた。
「じつはいま、この男に、営業部に戻って来ないかとお誘い申しあげていたところなんだが……、あっさり断られちゃったよ」
芳賀は高らかに笑った。
日下部は即座に事情を呑みこんだ。チラッと新田に視線を投げ、ふたたび芳賀をにらんだ。
「噂は本当だったのね」
「ああ」
「わずか3カ月余りでまた異動させようなんて、会社の御都合主義にもあきれたもんだわ。……しかも、修さんまでが、その片棒をかついでるとは知らなかった」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。俺は行きがかり上しかたなく社長の全権大使として来たまでだ。新田の固い決意は、この俺が社長にきちんと伝えておく。これでこの騒ぎも収束すると思うよ」
日下部は芳賀に何か言おうとして、思いとどまった。フワッと笑みが顔に浮いた。それを新田に向けた。
「新田ちゃん、気に食わないお客はとっとと追いかえしていいのよ。ここはね、独立国なんだから」
言うなり日下部はきびすを返し、応接室を出た。ドアを閉める手をふと止め、芳賀に向かって言った。
「修さん、ありがとう」
芳賀は軽く手を振って応えた。
ドアは音もなく閉まった。
「また惚れちゃった。いい女だよな」
芳賀が冗談めかした。
新田はそれに賛意を示して微笑んだ。
芳賀の顔がひき締まった。
「社長にはしっかり伝えておくよ」
「よろしくお願いします」
「さてと、これで新田にひとつ貸しをつくった、ということになるのかな?」
「かもしれませんね」
「いずれ返してもらうから、その覚悟でいろよ」
芳賀の口もとに意味ありげな笑いが漂う。
新田はわざと身震いしてみせた。
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Posted by love40 at 08:03
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