2005年10月06日

ラブ・フォーティ 第125話 〜テニス〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第124話より続く

 芳賀が、低いソファーから上体をせり出した。
「ところで、新田。ちょっと個人的なことなんだが、あまりでかい声で話せないんで、ちょっと……」
 芳賀は、応接テーブルの上にめいっぱい首を突き出し、新田を手招きした。
 つられるように新田も上半身を送り出した。
 顔と顔がわずか数センチで向きあった。
 芳賀はわずかに微笑みながら口を開いた。
「じつは……」と言った瞬間、芳賀の左手が飛ぶように伸びて新田の右手をつかんだ。つかむと、ややねじりながら自分のほうへいっきに引き寄せた。芳賀の目の前に、新田の手の平がさらされた。
 芳賀が勝ち誇ったように目を細めた。
「何だ、この手は?」
 顔をひきつらせたまま絶句している新田に、芳賀は自分の右手を見せつけた。
「俺のこの手によく似てるんだがな。まさかジョギングでできた豆だなんて言うんじゃないだろうな?」

 にらめっこだった。
 沈黙の中で互いの緊張がキシキシと競り合った。
 突然、新田が負けた。自分をあざけるように笑い出した。
「ギブアップです」
 新田の目が屈服した。
 芳賀の声が凄みを帯びた。
「テニスだな?」
 新田はしかたなくうなずいた。
 芳賀が新田の腕を離した。とたんに新田は風を食らったように後ろへひっくり返った。
 芳賀はまくしたてた。
「1週間に2〜3回ジョギングした程度で、そんなひき締まった体にはならねえんだよ。それに、その、おまえの目つき。そりゃどう見ても、何がしかの戦いに明け暮れている目なんだよ」

 新田は白状した。近所のテニス愛好家と知り合ったことから練習を始め、少しずつのめり込んでいったあらましを控えめに語った。
 新田の話が終わると、芳賀は勇んで迫った。
「当然、ファイト・バックだな」
「“ファイト・バック”?」
「おいおい、俺の話を忘れたわけじゃないだろうな。テニス大会だよ。春日杯。安斎を叩こうぜ。いい機会じゃないか」
「ちょ、ちょっと待ってください。僕はファイト・バックのためにテニスをしているわけじゃないんですよ」
「“ファイト・バックのためじゃない”? じゃあ何のためだよ?」
「……面白いからですよ」
「お……」
 芳賀は言葉を詰まらせた。何か言いたげな唇をもてあましながら新田をにらみつけた。目をしばたたき、新田に顔を近づけ、遠ざけ、また近づけた。それから芳賀は唇を尖らせて言った。
「そりゃ正しいわな」ソファーから立ちあがりながら言葉を続けた。「わかった。もう何も言わない。……が、もし、その気になったら手を組もうぜ」
 芳賀はドアに歩み寄り、そこでにこやかに振り返った。
「新田、借りはいつか返せよ」

続き(第126話)を読む


人気blogランキングに参加中♪   

この記事へのコメント
こんにちは、テニスの話にはいろんな意味があるんですね、そこまで読めてませんでした。
もう一度読んでみます。

今回は読んでいて自然と頭の中に映像が出てきて、すごく読みやすかったです。大きな会社の中で自分を持つことは大変なんでしょうね。わたしの父もそうやって頑張ってきたのかなぁと思いました。
Posted by かあちゃん at 2005年10月06日 12:27
●●●かあちゃんさんへ●●●
>もう一度読んでみます。
恐縮です!
>今回は読んでいて自然と頭の中に映像が出てきて、すごく読みやすかったです。
そうですか!
そう言っていただけると、嬉しいです。
>わたしの父もそうやって頑張ってきたのかなぁと思いました。
きっとそうですよ!
Posted by オヤジライター at 2005年10月07日 06:07