2005年10月28日
ラブ・フォーティ 第147話 〜ウォームアップ〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第146話より続く
トオルは面倒くさかったが、タツエさんの頼みでは無視できないなと思った。それに、5時間ほどラリーの相手をするだけで新しいテニスバッグが手に入るのだから、バイトとしては文句はなかった。相手は始めたばかりの40歳のオッサンだそうだ。タツエさんはいつものように思いきり打って構わないと言うのだから、そのようにさせてもらって、早いとこつぶしてしまえばバイト時間もぐっと短くなるかもしれない……。そんなことを思うトオルの口もとに、ゆらゆらと残忍な笑みが漏れた。
レッスン第1回目。トオルは約束の時間ぎりぎりに現れた。新田とあいさつを交わすと、トオルはそそくさとコートの向こう側へ走っていった。あまり口をききたくなかったのだ。ベースラインのあたりに立つと、適当に体を伸ばしながら新田の様子をうかがった。
新田は、トオルが来る前にすでにストレッチを完了させていたので、前方で準備運動らしきことを始めた中学生を、所在なげに見ていた。真っ黒に陽に焼けた小柄な少年だった。筋肉というものをまだ蓄えていないか細い体を、けだるそうに動かしている。晴美は「強い」と言っていた。そう思って見ると、ひ弱そうで、じつは猛毒を発する虫のように、新田には思えた。
トオルが待球姿勢をとった。
新田が声を飛ばした。
「それでは、お願いします」
新田がていねいに頭を下げると、大人に頭を下げられたことなどないトオルは、多少どぎまぎしながら無言で頭を下げた。
ほかのコートでプレイしている大人たちが、ふたりを盗み見た。大人と子供の1対1というのは非常に目立つ。しかもなぜか大人のほうが相手に礼を尽くしているように見える。これは見ものだな、と誰もが思った。
最初はゆるいラリーで始まった。トオルはその時点ですでに新田のレベルを見抜いていた。タツエさんは初心者と言っていたが、それ以上の腕はある。その辺のサンデープレイヤーと違って、下半身がしっかり鍛えられている。でも僕の敵じゃないな、と思った。
5分ほどウォームアップすると、トオルはいきなり70パーセントくらいの力で打ちはじめた。新田はなんとか打ち返した。トオルは、これ以上強く打つと、完全に温まっていない自分の体を痛めてしまうと思い、速度は変えることなく、ボールを右コーナー、左コーナー、右、左、右、左と打ち込みはじめた。相手はそのボールを追って左右に振りまわされることになる。俗に言う“振りまわし”を仕掛けた。新田はコートの右端から左端、左端から右端へとダッシュをくり返しながら、トオルへ打ち返した。
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Posted by love40 at 08:17
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