2005年10月31日

ラブ・フォーティ 第150話 〜オッサン〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第149話より続く

 レッスン2回目。トオルはまたもや、約束の時間ぎりぎりに現れた。新田の姿を見てちょっとギョッとした。もう来ないような気がしていたからだ。この前で懲りているはずなのに、このオッサン、ちゃんと来ている。それも、ずいぶんにこやかな表情をしている。気持ち悪いオッサンだな、とトオルは思った。
 この前と同じようにそそくさとあいさつをすませ、トオルはベースラインについた。新田は「お願いします」と言って頭をていねいに下げた。つられてトオルもちょこんと頭を下げた。

 ウォームアップのラリーを5分ほどしたあと、この前と同じようにトオルは振りまわしにかかった。新田は壁打ちのつもりで淡々と返球した。新田のフットワークが冴えた。
 トオルは徐々に打速を上げていったが、新田はあわてることなく確実に返球した。トオルは新田の反応が変わったことに少し驚いた。驚いてからすぐにこう思った。要するに、あのオッサン慣れちゃったんだ、と。

 トオルは予定どおり戦法を変えることにする。新田からの甘い返球を見さだめ、そのボールをラケットですくうようにして逆回転をかけた。ボールは速度をガクンと落とし、フワッと山なりに飛んだ。新田はあっと驚いた。あのガキ、突然“ドロップショット”を打ちやがった、と思ったときはすでに遅かった。ボールはフワッとネットを越えたところでポトンと地面に落ちた。新田は懸命に前に走ったが間に合わなかった。ボールは、まるで新田をせせら笑うようにコートをコロコロと転がった。思わず新田はトオルをにらみつけた。

 トオルは涼しい顔をして新田を見ていた。ドロップショットを決められるとプロだってカッとするものだ。あのオッサンが腹を立てるのも無理ないな、とトオルは思った。
――でも、腹を立てるのはこれからだよ、オッサン。

 ラリーが再開すると、トオルはふたたび小さな低フライのようなドロップショットをネットぎわに落とした。新田が必死に前進し返球に成功すると、トオルはそのボールを今度は高いフライに打ちあげた。“ロブ”だ。そのボールは大きな山なり軌道をつくって、コート最後方のベースラインぎりぎりに落下していく。新田はそのボールを追ってあわてて背走する。かろうじて間に合い打ち返すと、それをトオルはふたたびドロップショットする。ボールはネットぎわに落ちていく……。ドロップショット、ロブ、ドロップショット……。前へ、後ろへ、前へ……。新田は前後に走らされ、むかっ腹を立て、その怒りが足をいたぶり、フットワークは完全に粉砕した。

 35分でギブアップした。トオルは何事もなかったかのように軽く一礼すると、さっさと帰ってしまった。新田はまたもや汗まみれになってベンチにとり残された。

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