2005年11月05日

ラブ・フォーティ 第155話 〜ブーイング〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第154話より続く

 トオルはシェイクで口のなかを潤すと、ふたたび話し始めた。
「ロブは、守りの打ち方と言われています。野球の内野フライのようにボールを高く打ち上げ滞空させ、時間を稼ぎながら自分の体勢を立てなおしたり、相手の機先をはぐらかしたりするときに使います。ロブはあくまでも守りの打ち方ですから、攻撃力はあまりありません。攻撃力がないロブを多用するということは、見方によっては勝つ気のない消極的なプレイをすることですから、厳しく言えば最低のゲーム運びをしているわけです。実際、プロのゲームでは、ロブが不必要に出たりするとブーイングが飛ぶことがあります」

「戦わないテニスはダメってことか」
「そうですね。テニスは戦うためにあるんですから。アマチュアの、とくにオバサンたちのテニスで、延々とロブっぽいボールを打ち合っているのを見かけることがありますよね。ゲームと言うよりは、なんだか健康体操のような」
「ああ、あれを見ているとイライラするな」
「そのイライラするプレイを新田さんがやるんです、テニス大会で」
「僕が?」
「そうです。新田さんの相手はカッコいいテニスをしたいはずです。そこで新田さんがロブをしつこくしつこく打ち上げて、まともな打ち合いを避けたら、どうなるでしょう?」

「嫌がるし、怒るだろうな」
「それが狙いです。何本ロブを打ってもルール違反にはなりません。相手がそれでリズムを崩せば、新田さんにも勝ち目が出てきます」
「なるほど、勝ち目ありか。ただし僕も“傷”を負うというわけだね?」
「ええ、守るいっぽうの最低のテニスをするわけですから。評判は悪いと思います。名誉は傷つきます」
「トオル君だったら、どうする?」
「勝ちは勝ちです。事実は事実です」
 新田はギクリとしてトオルの顔を見つめた。トオルのほうは、新田の表情の異変にまったく気づかなかった。
 新田は噛みしめるように言った。
「事実は事実か……」

 トオルの目がいきなり輝いた。
「そうだ! 新田さん、もう1回やりませんか?」
「“もう1回”?」
「はい。ロブの特訓をしましょう。僕、つきあいますよ」
「しかし……」
 新田は本当のことが言いたかった。テニス大会に出る気など、じつはないことを。
 が、その前にトオルの声が弾んだ。
「イヤなヤツはやっつけましょうよ。スカッとしますよ」
 トオルが声を上げて笑った。
 新田はトオルの笑顔を初めて見た。
 その瞬間、新田は初めてトオルとつながったような気がした。
 新田はうなずいた。それから右手をトオルの前に出した。
 トオルは照れくさそうに新田の手を握った。その頼りなげな表情とは違って、トオルの手には力がこもっていた。

続き(第156話)を読む

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この記事へのコメント
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Posted by r-bl管理人 at 2005年11月05日 14:04
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Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月05日 17:20