2005年11月06日

ラブ・フォーティ 第156話 〜ベランダ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第155話より続く

 マクドナルドの前でトオルと別れると、新田は芳賀のケータイに電話を入れた。留守電になっていたので要件だけを吹き込んだ。
「新田です。テニス大会、出ることにしました」
 相手の電話に録音されてしまうと、逃れようのない証拠を残してしまったような気がした。もう後戻りできないな、と新田は思った。

 帰宅してシャワーを浴びていると、芳賀から電話が入った。「いまシャワーです」と新田が言うと、芳賀はお構いなしに「いますぐベランダへ出てみろよ」と言って一方的に電話を切ってしまった。
 新田は、芳賀の乱暴な電話にいくぶん腹を立てながら、ぞんざいな手つきで、濡れた体にバスローブを巻きつけた。それから部屋の中を、舌打ちを響かせながら通り抜け、ベランダに出た。
 息をのんだ。
 眼下に芳賀がいた。
 3階下の路上に芳賀が立っていて、新田を見上げて笑っている。新田は軽い目眩(めまい)に襲われた。この光景は以前に見たことがあるような気がした。それがいつだったのか思い出そうとしたが、瞬時には思い当たらなかった。

 芳賀が下から吠えた。
「きょうは、これから予定があるのか?」
「い、いえ、ありませんけど……」
「じゃあ、つきあえよ」
「そ、それは構いませんけど、どうやってここに……?」
 新田の疑問はじつにもっともだと言わんばかりの表情を浮かべ、芳賀は大きくうなずいた。それから右手で胸のあたりを、左手で腰のあたりを引っぱった。青いトレーニングジャケットと、揃いのトレーニングパンツだった。

 新田は目をむいた。
「芳賀さん、まさか、走ってきたのでは……?」
「その“まさか”だ」
「どこから走ってきたんですか?」
「“どこから”って……、家からに決まってるじゃないか」
「“家”って言ったって……」
「おい、新田。何をウダウダ言ってるんだ。さっさと着がえて、テニスバッグ持って下りてこいよ」
「テニスバッグ?」
「当たり前だろ。テニスするんだから」
「これから?」
「早く下りてこい!」
 ひっそりとした住宅街を叩きのめすような荒らげた声だった。新田はあわてて両の手の平を下に向け、芳賀のいらだちを静めようとした。
「わ、わかりました、わかりました。いますぐ下ります」

 言うなり新田は手すりから身を引きはなし、ベランダを後ずさりした。アルミサッシの窓レールに踵がぶつかったところでクルッと反転し、部屋の中に飛び込んだ。
 新田は身づくろいをしながら、この一連の光景に何かを思い出そうとしたが、つかめなかった。
 買い物に出ている晴美にメモを残し、玄関を出ると、階段を駆けおりマンションのエントランスへ飛び出した。

続き(第157話)を読む

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この記事へのコメント
以前新田さんが酔いつぶれて見たあの夢は・・・
ここにつながっていたのですね。
デジャ・ブなのか、正夢なのか? ドキドキ。
Posted by ままぷりん at 2005年11月06日 10:20
とうとう言っちゃいましたか。「テニス大会に出る」と。

確かに新田氏の上達ぶりは目を見張るものがありますが。。。
どうなるんだろう。結果が想像できない。
ビミョウー。

Posted by cm113605222 at 2005年11月06日 14:14
●●●ままぷりんさんへ●●●
>デジャ・ブなのか、正夢なのか? ドキドキ。
思えば、あの頃から随分来たものですね・・・。
ジ〜ン。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月06日 17:55
●●●cm113605222さんへ●●●
>とうとう言っちゃいましたか。「テニス大会に出る」と。
とうとう、です。
でも、新田と安斎の力の差は、歴然としています。
どうなることか・・・
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月06日 18:00