2005年11月08日
ラブ・フォーティ 第158話 〜トーナメント〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第157話より続く
「俺の作戦というのは……、安斎と対戦するときは、ゲームの最初のサーブを意図的にフォルトする、というものなんだが。どうだい?」
「“意図的にフォルト”? つまり、わざとサーブを失敗するということですか?」
「そう。今回の大会は1セットマッチだから、1試合ごとに6ゲーム以上は戦うことになる。ということは、少なくとも3ゲーム以上は新田にサーブ権が回ってくることになる。言い換えれば、少なくとも3ゲーム以上はおまえにサーブ権がくる。そこで、対安斎戦では、その新田のサービス・ゲームの最初のサーブは、わざと思いきりフォルト……失敗するんだ。サーブを入れるよりは、外すほうが簡単だろ?」
「簡単は簡単ですけど、そのことにどんな意味があるんですか?」
「安斎と対戦するときは、俺も新田もそれをやるんだ」
「すると、どうなるんですか?」
「へっへっへ」と芳賀がにやけた顔を、新田に寄せてきた。新田は、ドライバーの芳賀に前を向いて運転するように、あわてて手ぶりする。芳賀は顔を戻し、横目で新田をうかがいながら誇らしげに言った。
「安斎は上級者だ。当然、相手をしっかり観察してくるはずだ。そこで、対安斎戦に限って、俺とおまえが同じように、豪快なフォルトを各ゲームの最初に打ったら、あいつはどう思うだろう?」
「変だと思うでしょうね」
「そう。でも、それだけじゃない。おそらくあいつは俺たちがつながっていると感づくはずだ。しかもそのふたりが、まるで安斎を挑発するように、わざとフォルトして“同盟宣言”をしていると思うはずだ。こういうことを試合中に発見すると、プレイヤーはとても動揺するものなんだ。安斎は相当に焦るだろうな。しかし、その試合以前に……」
芳賀はハンドルをポンポンと叩きながら、ひとり大笑いした。
新田が気味悪そうに聞いた。
「“試合以前に”?」
「俺やおまえがテニスをすると知ったら、安斎はさぞやぶったまげるだろうな」
確かにそれはそうだ、と新田は思った。
笑い疲れたのか、芳賀が静かになった。その間に、新田はいまの話をもう一度たどってみた。面白そうだと思った。が、同時に、変だと思った。
新田は芳賀に聞いた。
「作戦は面白いと思いますけど、今度の大会はトーナメントですから、安斎が芳賀さんと対戦し、なおかつ僕と対戦する確率というのはかなり低いんではないでしょうか? ヘタをすると、僕と芳賀さんが最初に同士討ちしたり、あるいはどちらも初戦で敗退したりすれば、それで万事休すですよね」
芳賀がふたたび笑った。
「そのとおり。でも、そんなことは考えるな。ファイト・バックってのは、うじうじ考えながらやるものじゃない。成功しようが、失敗しようが、スカッとやるものだ。しょせんはシングルス戦で、タッグマッチじゃないんだ。俺の作戦はちょっと安斎をからかってやろうという程度のものさ。あとは、俺は俺の、おまえはおまえの、それぞれの戦いだ。トーナメントのクジ運と勝負運のことは、神様にまかせておけよ」
「わかりました。そういうことなら」
言いながら新田は右手を芳賀のほうへ伸ばした。芳賀は左手でハンドルをさばきながら、自分の右手を新田に預けた。グリップだこで固くなった手の平が合わさった。そういえば、きょうはこれで2度目の握手になるな、と新田は思った。
続き(第159話)を読む
ランキングに投票ありがとうございます。たいへん励みになります。
Posted by love40 at 07:55
│Comments(0)




