2005年11月12日
ラブ・フォーティ 第162話 〜デリケート〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第161話より続く
丸山は、電話の向こうで途惑っている新田を想像しながらクスクス笑った。
「もっと怖いもの……。わかりましたか?」
「いえ、さっぱり」
「新田さんは、お生まれは?」
「東京です」
「なるほど。じゃあ、わからないかもしれませんね」
「東京生まれだと、わからないんですか?」
「かもしれません。じつは……」
「ちょっと待ってください。東京……、北海道……、もっと怖いもの……、あっ……」
「わかりました?」
「雪……、ですか?」
「そう、雪です。こちらでは、冬の間じゅう白一色の雪の世界ですからね。それなりの室内施設でもないかぎり、何か月もテニスはできません。私にとっては“不幸中の幸い”と言うべきなんでしょうが、その冬も終わってしまって、季節のいいこれからが正念場ですよ。誘惑に負けないで、我慢しきれるかどうか……」
「なるほど……」
新田は、同情するようにため息をついた。
わずかに間があいた。
丸山が声を改め、話題を変えた。
「ところで、新田さんのほうはいかがですか? 例のラケットはお役に立っていますか?」
「ええ、最初はタツエさんの判断で、丸山さんが選んでくださったラケットを使いました」
「そうですか」
「ひと月ほどで、もう1本のラケットを使うようになりました」
「ほお、始めて1カ月であれを! それは凄い。あれはなかなか気むずかしいラケットで、ちょいとてこずるんですよ」
「最初はそうでしたが、慣れてくるとデリケートな感触が何とも言えないですね」
「こりゃ驚いた。大したもんだ」
丸山は感心しきった声を響かせた。
新田は照れ笑いをした。
ふたりはしばらくラケットの話をしていたが、やがてタツエの厳しいレッスンの話となり、ついには新田が破門されてしまったことへと話は及んだ。
丸山はさして驚いたふうでもなく「破門されましたか。相変わらずタツエさんはやんちゃしてますね」と言って笑うのみだった。新田は拍子抜けしてしまった。と同時に、ひょっとすると自分は、この丸山の大らかな反応を期待して電話したのではないか、と思った。
新田は、自分に関する話をひとまず終えると、テニサー仲間の近況を伝え、彼らが丸山の安否を心配しているから、そろそろ事の顛末を明らかにしてもいいのではないかと言い添えた。丸山も、ずっと気になっていたことだと声を曇らせ、近いうちに何らかの形で連絡することを約束した。
新田の耳に、牛の声がひときわ大きく響いた。新田は、丸山が仕事中であることを思い出し、長電話で邪魔をしているのではないかと気づかうと、丸山は「いやいや、いまは私ひとりで、牛とにらめっこしているだけですから構わないですよ」とのんびりした声で答えた。
そののんびりした声に、わずかに力がこもった。
「ところで、新田さん。きょうお電話をくださったのは、ほかにも何か理由があるのではないですか?」
「と申しますと?」
「いえね、長いこと客商売をしてきましたから、なんとなくわかるんですが……。久しぶりというのは、たいてい何かきっかけがあるものなんですよ。こうやって久しぶりに新田さんが私に電話をする気になるには、何かそれなりにきっかけがあったのではないか、と思ったんです。たとえば、きょう新田さんに何か起こったとか……、これから何か起こるとか……」
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Posted by love40 at 07:59
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