2005年11月14日

ラブ・フォーティ 第164話 〜ビジネス〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第163話より続く

 丸山は迷ったすえに、ある告白をすることにした。
「じつは……、新田さんに謝らなければならないことがあるんですよ」
「はあ?」
「新田さんが私の店にいらっしゃったとき、タツエさんの新聞記事の話をしましたよね。覚えてますか?」
「ええ、もちろん」
「あのとき、Aさんという人が話に出てきました。つまり、タツエさんはAさんに自分の少女時代の話をした。ところが、そのAさんはのちに海外へ行くことになり、Aさんがこの私にタツエさんの秘密を話した、と。覚えてますか?」
「はい。よく覚えています。あれ以来、僕の胸の中に鍵をかけてありますよ。あの話が何か? まさか作り話だったとか?」
「いえ、タツエさんの新聞記事は本当です。が、ひとつだけ私は嘘をつきました」
「“嘘”?」
「はい。じつは、あの“Aさん”というのは……、この私なんです」
「えっ?」

 新田は、いきなり足払いでも食らったかのような目眩に襲われた。あわてて、自分の胸にしまい込んでいた話と、丸山がいま言ったことをすり合わせようとした。
「でも、Aさんが丸山さんに話を……。ということは、丸山さんが丸……?」
 新田の困惑ぶりに、丸山はひどく恐縮した。
「も……、申し訳ない。あの話では、3人の人間がいるように言ってますが、じつは……、ふたりしかいません。タツエさんと私……だけです」
「えっ? ふたり?」
 新田は混乱するばかりだった。
 丸山は言葉を吐き出すにつれ、冷静さを取り戻していった。
「……ふたりです。……タツエさんから新聞記事を見せてもらったのは、この私なんです。Aという第三者なんて最初からいなかったんです」
「どうして、またそんな?」

「タツエさんが誰にも明かしたことのない秘密をこの私にだけ話した、となると、いろいろ邪推を招くのではないかと……。それがイヤで、Aという第三者を登場させたんです。そのほうが話として生臭くないと思ったんです」
「なるほど……。実際はふたりだったと……」
「誤解しないでくださいよ。確かに、タツエさんと私は、ほかの仲間以上に、とても親しくはしていましたが、けっして、いわゆる男と女の関係ではないんです。おそらく私たちが同じ商売で、しかも歳も近いということで、気が合ったんだと思います。新田さんにもわかっていただけると思いますが、タツエさんという人は、とにかくさっぱりとした人間関係を好むんですよ」
「それは身に染みてよくわかります。なるほど、誤解されたくなくて、ああいう凝った話を仕立てたんですね。すべて理解……」

 新田が納得しかけると、丸山が電話の向こうであわてて言葉を差しはさんだ。
「新田さん、新田さん。あなたはまだこの話を理解していないんですよ。“Aは私だ”と言った意味が、まだおわかりいただけてないはずです」
「はあ?」
「私は“Aはビジネスで海外へ行った”と言いましたが、あれは本当のことなんです」
「“本当のこと”?」
「つまり、私はビジネスがしたくて本当に海外へ行ってるんです。いまから8年前、私がちょうど50歳のとき、若いころからの夢だったニューヨークでバーを持ちたくて渡米しているんです。タツエさんとは、それより2年前に知り合いまして、私は彼女からテニスを習っていました。つまり、そのころ私は彼女の“弟子”だったというわけです」

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