2005年11月15日
ラブ・フォーティ 第165話 〜スカンピン〜
(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )
第164話より続く
丸山はいったん言葉を切ると、ふっと思い出し笑いをした。
「私のほうが3つほど年上なんですがね。私くらいすぐ弱音を吐く弟子というのは、タツエさんにとって前代未聞だったんじゃないかな。出来の悪い生徒でした。でも、タツエさんは本当によく面倒を見てくれましてね。そうこうするうちに、突然私がニューヨークへ行くと言い出したわけです。彼女、怒りましたよ」
「弟子をやめるからですか?」
「いえ、そうではなくて……」丸山は噴き出しそうになって、それをかみ殺した。「じつにお恥ずかしい話なんですが、私、まったく英語ができないんですよ。なのに、ニューヨークへ行ってバーを開くんだって言ったものですから、彼女が烈火のごとく怒ったんです。こっぴどくののしられましたよ。“マルさんは大胆と無謀の区別がついていない”とか、“いつまで道楽息子やってるんだ”とか……。でも、あのときの私は、うわついた気持ちでしか彼女の話を聞いていなかった。で、結局“破門”です。“マルさんみたいな世間知らずは大嫌いだ。もう二度と私の前に現れるな。とっととニューヨークでもどこでも行きやがれ!”です」
「で、ニューヨークへは行ったんですか?」
「行きました。スカンピンになって半年で帰ってきました」
丸山はのんびりとした声で笑った。
新田はせっつくように聞いた。
「それから、どうしたんですか?」
「東京へ戻っても何もありませんから、故郷(ここ)へ帰ってきました。帰ってからしばらくして、タツエさんに詫びの手紙を3通ほど出したんですが、彼女のほうからはなしのつぶてでした。ああ、やっぱり破門なんだな、とそのときつくづく思い知りました。
それから数ヶ月たった正月のことです。どうせ返事は来ないだろうと思いながらも、年賀状だけは一応出したんです。すると驚いたことに、早々にタツエさんから手紙が返ってきたんですよ。とても簡単な文面ではありましたけれども。ええと……、“前略 テニスがしたいのなら、破門を解いてもいいです。草々” ただそれだけでした。要件だけの簡潔さが、タツエさんらしいといえばタツエさんらしい」
丸山の笑い声に、牛の鳴き声が重なった。
新田が聞いた。
「それで、丸山さんはまた東京へ?」
「すぐにではありませんけど、タツエさんから手紙をいただいたことが、ふたたび東京へ行くきっかけになっていることは確かですね。もう一度行って、自分の理想の店をつくってみよう、テニスもうまくなってやろう、と欲張ったわけです。どちらも失敗してしまいましたけどね」
丸山の屈託のない笑い声が響いた。
新田は、丸山の話に耳を傾けているうちに、ちょっとした疑問に突き当たっていた。丸山の3通の手紙を無視しつづけたタツエが、なぜ4通目の年賀状を機に破門を解く気になったのだろうか。
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Posted by love40 at 08:03
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