2005年11月16日

ラブ・フォーティ 第166話 〜プロフィール〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第165話より続く

 新田は尋ねた。
「ところで、丸山さんが出したその年賀状には、どんなことが書いてあったんですか?」
「ごく普通の年始の挨拶ですよ。“謹賀新年”というような……」
「それだけですか?」
「ええと……、あとはたわいもない添え文です」
「“添え文”?」
「ええ。あの年はとくに雪が多くて、そのことについて書いたんです。確か……、“スキーヤーにとっては喜ばしい風景も、テニスプレイヤーにとっては白い砂漠だ”というようなことです」
「“白い砂漠”?」
「ええ。除雪しても除雪しても、次から次へと雪が降ってきて、たちまち真っ白に、何もかも真っ白に覆いかくしてしまうんです。屋外では、テニスができない状態が延々と続くわけです。だからテニス愛好家としては、まるで何もない白い砂漠をさまよっているような感じがしたんで、“白い砂漠”と……。我ながら、なかなかいい言いまわしだなと思ったもんですから、いまだに覚えているんですよ」
 丸山は自慢げに言った。

 新田はさらに尋ねた。
「そのほかには何か書きました?」
「いえ、それだけだったと思います」
「そうですか。“白い砂漠”……」
 新田はその言葉が妙に気になった。何か強い響きを感じた。その言葉が、タツエの気持ちに何らかの働きかけをして、破門を解く気にさせたように思えた。が、それ以上は何も思い浮かばなかった。
 会話が途切れた感じになり、それを埋め合わせるように、丸山がだしぬけに笑った。
「いやあ、話がすっかり脱線してしまいました」丸山は、雰囲気を仕切りなおすように軽く咳払いした。「要するに、タツエさんという人はそういう人なんです。たとえ怒っても、あとを残さない人です。しかるべきときが来れば、すっきりと和解できますよ。さっきも言いましたけど、彼女の破門は“ふたたび門を叩きなさい”という意味くらいに考えるべきです。だから新田さんも、あきらめたり恐れたりせず、自分の気持ちを何度も何度も伝えるべきではないでしょうか」

「そうですね。そう考えないと先へ進みませんよね」
「そうですとも。この私をご覧なさい。どうしようもない人間ですけど、それなりに道は開(ひら)けてくるものです。ところで、新田さん。あしたの試合のことですけど、レベルは高いんですか?」
「おそらく、そうなると思います。出る人たちのプロフィールを聞くと、みんな中級者以上のようです。なかには、インカレで相当なところまで行った者までいますから。それに比べ、こちらはテニスを始めてわずか7カ月ですからね」
 新田の弱気を感じとってか、それを打ち消すように丸山が言葉を吐いた。
「でも、その7カ月は、タツエさんにみっちり仕込まれた7カ月ですよ」
「あ、はい、そうですね。そのとおりです」
 新田の声がいくぶん弾んだ。

 丸山が電話機に向かって声をひそめた。まるで他人には盗み聞きされてはいけない重要なことでも話すような、力みを帯びた声だった。
「ねえ、新田さん。いま気がついたんですけど、新田さんがラケットを持って7カ月ということは、私が故郷(いなか)に戻って7カ月がたったということですよね。そうですよね……。あれから7カ月ですか……。もう私は何もかもダメかと思っていたのに、ほら、このとおり、いまはなんとかなっています。7カ月前には予想もつかない自分ですよ」丸山がさらに力んだ。「ねえ、新田さん。神様は7日間で天地を創造されたそうですが、7カ月といえば、その30倍の長さです。それだけの時間、新田さんは必死にトレーニングしてきたんだから、奇跡のひとつやふたつ起こしたって、ちっともおかしくありませんよ」

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