2005年11月17日

ラブ・フォーティ 第167話 〜プッシュ〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第166話より続く

 4月22日、土曜日。大会当日。
 新田は起きると、まず最初にベランダに出て空をうかがった。申し分のない天気になりそうだった。理沙が吊った照る照る坊主をそっと外し、感謝し、それをお守り代わりにテニスバッグに忍ばせた。
 それから、新田はいつもと同じように早朝のランニングと壁打ちをこなした。これから試合があるからといって、トレーニング時間を減らすことも増やすこともしなかった。いつもと同じことをきっちりこなせることが心身のベストと考えていた。

 朝食は多少多めにとった。理沙から、新学期の新しいクラスの様子を聞きながら、白米、煮魚、味噌汁などをゆっくりと味わった。
 8時。新田は出かけることにした。晴美と理沙はあとから見に来ることになっている。玄関で晴美は「頑張って」と言おうとして思いとどまった。タツエとの約束だった。
「楽しんできて」
「ああ」
 言ってから、新田はドアを押し開いたところで手を止めた。振り返った。
「……きょうは何が起こっても驚かないで見ていてくれよな」
「何か起こるの?」
「きょうは勝ちたいんだ」
「勝ちたいと、何か起こるの?」
「勝つために何でもやってみようと思う」
 新田が微笑んだ。

 晴美は首をかしげた。
「いつだって勝とうと思ってプレイしてるんじゃないの?」
「ああ、そうだけど、いつもは勝てそうな相手に勝とうとしているだけだ。きょうは勝てそうにないヤツに勝とうと思ってる。だから何か起こるかもしれない」
「……わかったわ」
 うなずきながら晴美はタツエの言葉を思い出していた。“なりふり構わず勝ちたいと思うようになったら本物ね。本物の楽しみと苦しみは、それから始まるの”
 新田が手を軽く振った。
「じゃあ、行ってくる」
 晴美は軽くうなずき、手を振った。

 夫の姿が見えなくなると、晴美はすぐさまダイニングに戻り電話機の前に立った。つかのま、ためらった。が、昨夜ひと晩考えたうえで決めたことなのだと思いなおすと、電話機を取りあげ、かすかに震える指でボタンをプッシュした。いま私にできることはこれしかない、と思いながら。
 相手はなかなか出なかった。10回目のコールで、やっと応答した。相手は寝ぼけていて、ひどく不機嫌な声だった。晴美は、どなられるのを覚悟で口を開いた。
「晴美です。朝早くから申し訳ございません。じつは、とんでもないお願いがあって電話しました」

続き(第168話)を読む

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この記事へのコメント
とうとうこの日が来ましたね。
ドキドキしてきました。
なにが起こるんだろう…
Posted by かあちゃん at 2005年11月19日 23:49
●●●かあちゃんさんへ●●●
ご返事がたいへん遅くなって申し訳ございません。
メッセージ通知を確認しながら、コメントをお返ししているつもりが、僕のほうの不手際でご返事をしそこねていたようです。たいへん申し訳ございません。
>とうとうこの日が来ましたね。
そうですね。いよいよです。
新田の今までが、どのような形で表れるか・・・
それが、彼の40歳の出発点です。
Posted by オヤジライター加久時丸 at 2005年11月22日 08:47