2005年11月20日

ラブ・フォーティ 第170話 〜オックスフォード〜


(最初からお読みになりたい方はこちら→【ラブ・フォーティ 第1話】 )

第169話より続く

 やがて、コートサイドの一遇に出場者が揃うと、トーナメントのクジ引きがおこなわれた。
 出場者は男16名、女8名で、男女それぞれ、多喜食の社員以外に関連会社の人間も参加していた。
 安斎は泉岡と言葉を交わしながら、ときおり新田の様子をうかがっていた。新田と芳賀はなるべく離れた位置に立ち、無関係を装った。

 クジ引きの結果が次々とトーナメント表に書きこまれていった。そのたびに小さな歓声やどよめきが起こる。新田と芳賀が恐れていた初戦での両者の鉢合わせは免れた。
 芳賀は初戦を勝てば2回戦で安斎にぶつかることになった。いっぽう新田は、もし勝ち進めば3回戦で芳賀か安斎と対戦することになる。泉岡はもうひとつのブロックにいるため、彼と出くわす可能性は決勝時点まではない、という形になった。

 芝生の斜面に観客が集まり始めた。社員は好き勝手にバラバラに座り、その間、間(あいだあいだ)に出場者の家族とおぼしき大人や子供がまさにピクニックのようにシートを広げている。新入社員はひと塊(かたまり)で現れ一遇に陣取った。
 春日社長が現れた。トラッド調の紺のブレザーにレジメンタルタイ、それにライトグレーのスラックスを合わせ、その下に真っ白なテニスシューズを履いている。
 春日は悠然とした歩みで会場中央に進んだ。横並び6面のコートの中央、つまり3番コートと4番コートの間のコートサイドに立つと、マイクのスイッチを入れた。

 春日は満面に笑みを浮かべ、コートエンドに横一列になった出場者と、その後方フェンス越しに腰をおろしている観客たちに向かい、声に力を入れて挨拶した。
「本日はご多忙の中、多喜食のテニス大会にお集まりいただき誠にありがとうございます。出場する皆様、応援に来てくださった皆様、いずれの皆様にとっても楽しい一日になりますよう願っております。
 皆様におかれましては、ひょっとしますと“数あるスポーツの中で、なぜテニス大会なのか?”という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。これが野球大会やゴルフ大会であれば、少しも抵抗のないところなのでしょうが、会社のテニス大会となりますと、いささか珍しい催しかもしれません。

 これは、この大会を主催させていただきました私の、誠に勝手ながら、個人的なスポーツ体験に由来するものでありまして、その点をあらかじめご説明しておかなければなりません。
 学生時代、私は2年ほどオックスフォード大学に留学しておりましたが、そのときお世話になったご家族がたいへんなスポーツ一家でした。その家にステイした私は、自然とさまざまなスポーツをたしなむようになりました。

 外交官だった、その家の主(あるじ)はこよなくゴルフを愛されていて、いかにも英国紳士といった方でした。奥様は乗馬。息子はオックスフォード大学のラグビーの選手。さらに彼の妹――エセルという名の、たいへん美しい17歳の高校生でしたが――彼女はテニスに夢中になっておりました。
 ええ、すでに説明を必要としないかもしれませんが……、彼らとのスポーツ・ライフの中で、私がとりわけ熱を入れた種目と申しますと、これはもう明白きわまりないものでして……」
 春日のユーモラスな話しぶりに、会場にほのぼのとした笑いが起こった。

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